研究課題/領域番号 |
25400489
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
武藤 鉄司 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (70212248)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 大陸棚 / 河川 / デルタ / オート層序学 / 実験 / 海水準変動 / 移動境界 / 非平衡応答 |
研究概要 |
海水準が上昇し続ける場合または下降し続ける場合に河川デルタ系がそれに対してどのように応答するかはよく理解されているが,海水準の上昇と下降が交互に繰り返される多サイクル海水準変動のもとでの河川デルタ系の成長過程はまだよくわかっていない。これを探究することにより,非平衡応答の理解を基調とする「デルタ性大陸棚のオート層序学」の開拓につながる。 研究1年目にあたるH25年度は,一次元モデル実験の手法により,多サイクル海水準変動のもとで河川デルタ系の3つの移動境界(沖積基盤境界,海岸線,デルタトゥ)がどのように振る舞うかに注目して調べた。実験は長崎大学の堆積実験水槽マルジ6号を使用し,この水槽内に透明アクリル開水路を底面が水平になるように設置したうえで,後者の中に無波浪条件下でのデルタを生成した。実験中,堆積物供給速度と水流量をそれぞれ一定に保ち,海水準の定速上昇と定速下降を所定の時系列パターンで交互させた。 海水準変動サイクルの進行とともに,海岸線は前進と後退を繰り返しつつも全体としては海側へ移動していき,デルタ性大陸棚が成長した。6ランのそれぞれで観察されたできごとは次のように要約できる。初期サイクルにおいては,系は海退→デルタ性海進→非デルタ化(オートブレイク)→非デルタ性海進のフルコースを経験した。海岸線は初め海側へ前進し,やがて陸側への後退に転じた(オートリトリート)。しかし,サイクル数を経るに従い海退期を経ずにデルタ性海進が起こるようになり,さらには海水準が上昇に転じると同時に非デルタ性海進が起こるようになった。すなわち,多サイクル海水準変動下の河川デルタ-大陸棚系ではサイクルの経過にともない非平衡応答それ自体が変遷する。 本研究成果の一部をAGU2013秋季大会,ストラトダイナミクス共同会議(イリノイ大学)および日本堆積学会2014山口大会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画ではH25年度中に二次元実験(無波浪)にまで取り掛かる予定であったが,結果として一次元実験(無波浪)の実施に留まった。これは,職場で求められている役職上のさまざまな用務の遂行に想定外の時間を取られたことに加え,同じ実験室を使用する学部生および大学院生との実験室使用スケジュールの調整がうまく行かなかったことによるものである。 二次元実験には着手できなかったものの,一次元実験で解き明かすことを目標にしていた最大かつ根本の問題はほぼ解くことができたので,成果それ自体は十分に納められたと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度に計画していながら実行できなかった二次元実験(無波浪)を早期にこなし,一次元実験(無波浪)の成果とともにH26年度半ば頃までにデルタ性大陸棚の非平衡応答に係る新知見について整理したい。当初計画のスケジュールに追い着くべく,スピード感を持って研究を進めていく。 年度の後半には,多サイクル海水準変動の下でデルタ性大陸棚を成長させる一次元有波浪実験を筑波大学アイソトープ環境動態研究センターの造波装置を用いて実施し,有波浪条件下の大陸棚オート層序ノルムの開拓に取り掛かる。実験においては,海水準下降期における平衡河川-デルタロブの局在性・回帰性とその時間的変遷が波浪フォーシングによってどのように改変されるかという点にとくに着目する。また,連携研究者の協力のもと,当初の計画で挙げていた東シナ海大陸棚および日本列島周辺陸棚の音波探査プロファイルの精査に取掛かり,オート層序ノルムの検証に年度内に着手できるよう努力する。
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