顕生代海洋ストロンチウム同位体比の永年変化は,ペルム紀中期-後期境界で特異な最小値をとる。海洋への大陸由来フラックスとマントル由来フラックスのバランスは,ストロンチウム同位体最小値の時期を境に古生代型から中生代型へと大転換したと考えられるが,その原因は未解明である.さらに,当時起きた顕生代最大規模の生物絶滅事件との関連も示唆されるが、古生代型から中生代型への生物相の劇的変化を引き起こした地球規模の表層環境の変化との因果関係についてもあきらかになっていない。 そこで本研究では,世界各地で採取された当境界をまたぐ連続性のよい地層を対象に、ストロンチウム同位体比および炭素同位体比他の各種古環境指標値を解析し,同位体組成変化とほぼ同時期に起きた地球規模の環境変動の因果関係と根本原因の解明を試みた.本研究期間で,ペルム紀中期-後期境界を含む東日本岩井崎,南中国四川省、クロアチアVelebit山地,ロシアなど世界各地から採取された低緯度/中緯度,遠洋/陸棚など堆積場の異なる炭酸塩岩の分析を実施した.その結果,当時の海水ストロンチウム同位体比最小値はペルム紀中期ガダルピアン世Wordian期には開始していた,つまりこれまで考えられていたよりも古い時代から長期間続いたことが明らかになった.また,岩井崎石灰岩の同位体層序データ分析結果より,中緯度陸棚礁崩壊時期がペルム紀中期ガダルピアン世キャピタニアン期に開始していたことを示し,生物層序データも合わせて低緯度と中緯度での変化の違いを比較検討し,寒冷化による絶滅,またその後の温暖化による氷床増減をストロンチウム同位体変動の主因とする大陸フラックス変化のモデルを示した.
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