研究実績の概要 |
巨大噴火に先立つ地下のマグマ溜りの物理化学過程の解明は,巨大噴火に至る前駆現象の理解に不可欠である.9万年前に起った阿蘇-4カルデラ噴火の前にカルデラ外に流出した高遊原溶岩とその給源にある大峰スコリア*は,巨大噴火直前のマグマ供給系に関して重要な情報を与えてくれる. 本年度の研究では,これらの噴出物に含まれる鉱物中のメルト包有物を調べた.対象試料は(1)阿蘇-4火砕噴火の初期の小谷(おやつ)軽石流堆積物,肥猪(こえい)火山灰流堆積物と (2)大峰スコリアで,阿蘇カルデラの西方,阿蘇郡西原村大峰山,益城郡益城町小谷,北方の玉名郡南関町肥猪で採集した.全岩化学組成をXRF(熊本大学,北九州自然史博物館)で,斑晶として含まれる斜長石,単斜輝石,斜方輝石の鉱物化学組成をSEM-EDS, SEM-WDS(熊本大学,東大地震研),さらに鉱物に包有されたメルトの組成,揮発性成分を顕微FT-IR装置(東大地震研,共同研究)を用いて分析した. 大峰スコリア中の斜長石斑晶に含まれるメルト包有物の組成は比較的狭い範囲(SiO2=67-70 wt.%)に集中し,阿蘇-4サブユニットの肥猪,小谷の軽石に含まれるメルト包有物組成(SiO2=71-74 wt.%)より,MgO, FeO*(全鉄), TiO2, P2O5に富み,異なる組成トレンドを示した.大峰スコリアのSO3は阿蘇-4より多いが,H2Oは1-2 wt.%のものが多く,阿蘇-4(3-5 wt.%)より少なく脱ガスの可能性がある.メルト包有物からも大峰,高遊原が阿蘇-4本体とは異なった組成のマグマであり,揮発性成分が少なかった可能性が認められた. (*注:大峰スコリアはデイサイト組成であるが,暗灰色なので「スコリア」という名称を用いた.)
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