研究課題
基盤研究(C)
本研究では、南部マリアナ海溝陸側斜面域の地殻浅部から上部マントルに至る、海底地質断面図を構築し、テクトニクスの解明を目的とする。そのために実施した「R/Vよこすか」YK10-05研究航海の「しんかい6500」(以後、6Kと省略)6KD1234潜航で石井は、蛇紋岩冷湧水系Shinkai Seep Field(SSF)生物群集を発見した。その後2012年1月R/Vトーマス・トンプソン号のTN273航海(石井が乗船)で、深海曳航式ソナーを用いてSSF域の高解像度(約1.5 m)反射強度マップを取得した。それらの基礎データを基に「R/Vよこすか」YK13-08研究航海(主席研究員小原泰彦、申請課題名「南部マリアナ前弧の地球生命科学」)が計画され、SSF近傍で5回の6K潜航を含む海底調査が実施された。SSFにおい6Kの潜航調査は次の通りである。(A)新たにSSF近傍で10cm~数mオーダーの大小様々なチムニーが林立する分布域を発見し、試料採集に成功。(B)岩石・堆積物等の地質試料採取。(C)シロウリガイ、チューブワームを含む大型生物の採取。(D)“活動的”冷湧水ベントは発見できず。(E)海底反射強度マップに基づく探索では、新たな冷湧水サイト発見出来ず。(F)シロウリガイ及びチムニー分布域内外で、保圧型採水器とニスキン採水器による採水、MBARIコアラーとスラープガンを使用による、生物学・微生物学用試料を採取。(G)保圧採水器で採取された水は、船上においてガス抽出を行い、微生物学解析用サブサンプルとした。航海後の陸上の研究は(1)かんらん岩とガブロの火成岩岩石学及び変形岩石学、(2)海底地質断面図の構築とテクトニクスの解明、(4)SSFの水・ガス・泥の化学、(5)SSFの生物学・微生物学、(6)ブルーサイト・炭酸塩チムニーの物質科学的研究、に大別され連携研究者と共に解析中である。
2: おおむね順調に進展している
2013年8月27日から9月15日に実施された「R/Vよこすか」YK13-08研究航海では、SSF近傍で5回の6K潜航、および海底地形、重力、地磁気測定を含む海底地質・生物・化学調査が行われた。しかし、SSF近傍の調査海域が米軍の射撃訓練海域に含まれていたため、射撃訓練日時との関係で立ち入り制限を受け、自由な調査が行える状況では無かった。しかし、基本的な調査ができたことに加え、本年7月6日から7月28日に、6K潜航調査を含む「R/Vよこすか」YK14-13研究航海が実施される予定で、本研究目的達成に十分な調査が期待される。
H26年度は、H25年度の6K航海で採集した試料の陸上での研究が主となる。カッコ内に研究従事者を示す(研究代表者石井、研究分担者小原、他9名は連携研究者)。即ち(1)かんらん岩岩石学:構成鉱物の組成をEPMAで測定、単斜輝石のREE組成・同位体組成を取得し、マントルプロセス、メルトの発生・移動についての知見を得る(小原、石井、柵山)。(2)ガブロ岩石学:かんらん岩の知見とから、メルトの発生・移動について考察すし、ガブロのU-Pb年代より火成活動時期を探る(谷、道林、小原、石井)。(3)かんらん岩とガブロの変形岩石学:構造岩石学的手法で、かんらん岩・ガブロの変形解析と、蛇紋岩化作用の研究から南部マリアナ前弧リソスフェアの変形を定量的に記載する(道林、針金、小原)。(4)SSFの水・ガス・泥の化学:炭化水素・水素・窒素組成および同位体組成、主成分元素・金属元素組成などを取得する(山中、石橋)。(5)SSFの生物学・微生物学:水・泥中の微生物についてDNA解析を行い、シロウリガイ等のベントスについてDNA解析・同位体分析を行う(藤倉、渡部、高井)。(6)ブルーサイト・炭酸塩チムニーの物質科学的研究:CTスキャン、XRF組成マッピングにより3次元的立体構造を把握し、チムニーの形成過程と冷湧水の化学的性質を解明する。(7)議論の中間的なまとめ: 取得されたデータを多角的に検討し、SSFの流体はスラブ起源か、マリアナトラフ由来の貫入岩体を熱源とする海水の浅部循環によるものか、という仮説を検証し、不足しているデータの明示を行う(石井、小原、9名の連携研究者)。更に、現在まで未調査であった、南部マリアナ海溝陸側斜面、南西端域調査(主席研究員小原、課題名「マリアナ弧南西端の地球生命科学調査」)は7月6日から7月28日に「R/Vよこすか」YK14-13研究航海として実施される。
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Journal of Petrology
巻: 56 ページ: 1149-1175
深田地質研究所年報
巻: 14 ページ: 15-28
巻: 14 ページ: 29-56