研究課題
本研究は、現世および考古遺跡発掘現場において台風を起源とする高潮及び越波堆積物について、その堆積相を記載・解釈し、海岸低地での高潮及び越波の侵食・堆積過程を明らかにすることを目的としている。現世では三重県松阪市松名瀬海岸における台風堆積物を検討し、2004年と2013年に形成された越波堆積物による堆積物の概要について調査を行った。前年度に微地形調査を行った越波堆積物についてトレンチ調査を行った結果、越波堆積物は明瞭な再活動面に境されたユニットA~Eに区分することができた。これらの内部構造およびその累重関係より、2013年のファンは以下のように成長したと推察することができた。まず暴浪により砂嘴と既存の越波堆積物(ユニットAおよびそれ以前の堆積物)が侵食され、陸側への堆積物の流入が始まった(ユニットB・C)。その後,暴浪による侵食作用は弱まり、堆積作用が卓越するようになり、これまでの侵食域は埋積されはじめ、ファンの上方への成長が進行した(ユニットD)。その後,活発な侵食・運搬作用は収まり、細粒部のみが再動され、ファンが陸側に成長した(ユニットE)。このように侵食・堆積のステージが段階的に進行する過程は、申請者が調査を行った福島県南相馬市における津波堆積物などでは確認できず、津波堆積物との差異が明瞭となった。考古遺跡発掘現場においては、大阪市浪速区恵美須遺跡の資料について、ケイ藻、植物珪酸体、粒度分析などを実施し、高潮堆積物におけるそれぞれの特徴について分析を行った。その結果、高潮(台風)堆積物と他の環境ではこれらの結果が異なり、微化石分析などからも識別できる可能性が高まった。
2: おおむね順調に進展している
三重県松名瀬海岸における越波堆積物については、前年の微地形調査に加え、堆積物の内部構造からその形成・堆積過程が明らかとなってきており、越波堆積物の進行ステージの認識が可能となってきた。また、福島県南相馬市における津波堆積物(2011年東北地方太平洋沖地震津波)の調査も同時に実施し、越波堆積物と津波堆積物の差異を認識できる可能性が高まってきた。西大阪平野の考古遺跡の堆積物については、発掘数が十分ではなく、地層からの検討が十分ではなかったが、微化石などの分析を実施し、台風起源の堆積物とそれ以外の堆積物がこれらの分析からでも区別することができる可能性が明らかとなってきた。
三重県松名瀬海岸における越波堆積物については、引き続き微地形および堆積物調査を実施し、複数の台風による越波堆積物の形成過程およびより低湿地での堆積物の分散過程を検討する予定である。他にも伊勢湾と同様の内湾域での他の越波堆積物(瀬戸内海地域を対象)や、冬期の暴浪など台風以外で形成された越波堆積物(北海道北東岸を対象)を検討し、越波堆積物の一般的特徴を明らかにする予定である。西大阪平野における考古遺跡については、発掘現場での情報をさらに収集し、検討数を増やしていく予定である。さらにこれまで検討した遺跡での資料から年代測定や微化石および粒度分析などを実施し、平野の変遷と台風などのイベントの関わりから、平野形成へのイベントの関与について検討を進めていく予定である。
その他経費による分析委託経費が計画分よりも安く執行されたため。
旅費及びその他経費を予定通り執行していく計画である。
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Nature Study
巻: 60 ページ: 137-138