研究課題
本研究は、現世および考古遺跡発掘現場において台風を起源とする高潮・越波堆積物について、その堆積相を記載・解釈し、海岸低地における高潮・越波の侵食・堆積過程を明らかに知ることを目的としている。また津波堆積物との比較検討を行い、地層中におけるこれらのイベントの識別に貢献する。本年度に関しては、現世の高潮・越波堆積物を中心に、その堆積過程や海岸低地への堆積物の拡散やそれを規制する要因について検討を行った。本年度は、三重県松阪市松名瀬海岸における台風堆積物を主な検討対象とした。トレンチ掘削による内部堆積構造の検討の結果、台風(越波)堆積物と見なしていた堆積地形は、台風時と通常時の堆積物の累重からなることが明らかとなった。すなわち、暴浪時には越波による砂嘴の破壊と連続した越波堆積物の急速な堆積が進行する。それに対し、暴浪が来襲しない期間には、満潮時の波浪や風によって砂嘴が徐々に成長していく過程が明らかとなった。これは砂嘴などの沿岸地形が暴浪などのイベント時のみではなく、通常時にも堆積作用が継続することで、その地形発達が促されていることを示している。また北海道北部、紀伊半島南東部、瀬戸内海地域の高潮・越波堆積物およびその堆積微地形(一部、津波堆積物と目されているものも含む)を検討した結果、自然状態の海浜地形が維持されている海岸では、段や浜堤により高潮・越波が後背に広がらないのに対し、海岸侵食が進行している箇所では、高潮が容易に後背に広がることが堆積物や地形から確認された。これは海岸侵食が日本各地で問題になる中、海岸侵食を受けている地域において高潮による被害がかつてより広がる可能性を示しており、自然海岸の維持もしくは沿岸整備の重要性を示している。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
地質学雑誌
巻: 121 ページ: 173-178
10.5575/geosoc.2015.0017
博物館研究
巻: 50 ページ: 6-9