研究課題/領域番号 |
25400496
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 雄太郎 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50345807)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 進化 / 機能形態 / 知覚 |
研究実績の概要 |
骨格や硬皮の形とその動きによって成立する球体化防御姿勢は,節足動物のみならず他の動物グループでも度々採用されてきた効果的な防御様式である.この防御様式が成立するには,様々な部位の骨格の凹凸が互いに咬合することが求められる.しかし,それぞれの骨格形状を決定する遺伝子は,細分化した動物体の特定の部位にはたらく一方向的な作用であり,異なる部位で凹凸が咬み合うようにははたらかない.そのため,異なる部位の凹凸関係を知覚する副次的なメカニズムが,形態形成にフィードバックすることが求められる.この知覚フィードバックによる形態形成が化石・現生節足動物ともに認められるか検証を行ってきた. 化石節足動物の三葉虫では,二種類の咬合様式を確認した.ひとつは,関節付近の隣接する咬合部位であり,防御姿勢時以外の通常の動物体の動きにも必要な自己受容領域である.一方の遠隔位置にある咬合部位は,通常時は外界との接触を感知する領域である.隣接咬合部位は,発生過程におけるパラセグメント領域に位置しており,形状としては異なる位置にあるが,同一の神経支配領域に位置する.遠隔咬合部位は,神経支配領域も離れているが,脱皮のタイミングが異なる体領域にあるため,その時間差を用いて接触状態を感知することで咬合が成立すると推察できる.現生節足動物においても,同様の隣接・遠隔咬合部位を認め,その知覚システムも三葉虫で認められたものに即していた. 高次系統が異なる化石および現生節足動物グループにおいて,球体化防御姿勢は知覚フィードバックが介在する共通の形態形成機構であることが明らかとなった.さらにこの効果的な防御様式は,節足動物が通常必要な動きを制御・監視する知覚神経機構の外挿的な進化として成立しうることを示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三年計画の二年目となる平成26年度は,現生甲殻類ハマダンゴムシ(Tylos graniliferus)を試料として,球体防御姿勢に関わる咬合部位の特定,感覚器(知覚器官)の分布様式の解明を行い,これらの神経系と脱皮領域との対応関係を検討することを予定していた.十分な試料数も確保することができ,感覚器の分布様式の解明も滞りなく遂行することができた.一方,咬合部位における感覚器に連結する神経系について,骨格上の支配領域を解明する組織観察については外部委託し自らも取り組んだものの検討可能な結果を得られなかった.この解析方法は経験を蓄積した専門性が求められる 一部,直接的な結果を得ることが適わなかったものの,神経生物学や発生遺伝学分野の一般論と整合することが明らかとなったため,総合的に仮説を立証できる結果を取り揃えられたと判断できる. 計画立案時の情報収集に至らない点があったが研究の方針を転換する必要は全くないため,達成度を概ね順調とした.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の化石試料および次年度の現生試料について,予定していた形態学的解析は最終段階であり,論文公表に向けて掲載写真の選定や再撮影など,結果の整理を行ってゆく.化石および現生節足動物の球体化防御姿勢の成立は,検討結果にもとづくと、知覚システムが介在したうえで,脱皮時の骨格硬化の時間差を用いた形態形成機構となる.これは節足動物全般的に共通する形成機構と示唆されるため,検討試料以外の節足動物グループにおいて,同様の機構の存在が示唆できるのか,神経学,神経行動学分野の先行研究から対応事例を探ってゆく.同様に,発生遺伝学的な裏付けを数多く探してゆき,動きが関わる生物の形作りの信憑性を高めてゆく.
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