骨格や硬皮の形とその動きによって成立する球体化防御姿勢は,過去四億年にわたってさまざまな節足動物で度々採用されてきた効果的な防御様式である.この防御様式が成立するには,さまざまな部位の凹凸が互いに咬合することが求められる.しかし,それぞれの骨格形状を決定する遺伝子は,動物体の細分化された特定の体節にのみはたらく一方向的な作用であり,異なる領域の凹凸が咬み合うように両者を取りもつようにははたらかない.そのため,咬合関係の成立には,両者の形状を捉えて形態形成にフィードバックする知覚システムが介在することが求められる.このような調節機構が化石・現生節足動物ともに認められるか検証を行ってきた. 検討対象は、遠い系統関係にあり,さらに体制・球体化様式が大きく異なる現生甲殻類ハマダンゴムシと化石三葉虫エリプソセファルスを用いた.咬合部位には,機械受容を行う感覚毛もしくはそれを支える神経孔があり,咬合関係成立を知覚できる形質状態であった.現生・化石種ともに隣接する体節間と遠隔体節間の二タイプの凹凸の咬合関係があり,この二タイプを組み合わせて球体を構築することを見出した.また,隣接する体節間の咬合関係は同一神経支配領域(parasegment発現領域)に対応しており,一方の遠隔体節間は脱皮の境界が咬合における凸と凹の転換境界に対応していた. 高次系統が異なる化石および現生節足動物グループにおいて,球体化防御姿勢は機械受容の知覚が介在して形態形成にフィードバックする機構を内在していることが明らかとなった.さらにこの効果的な防御様式は,知覚神経機構と脱皮様式が整合することが必要であり,節足動物の形態形成にはその高い可能性が内包されていることが示唆される.
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