研究課題/領域番号 |
25400498
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
入月 俊明 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (60262937)
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研究分担者 |
野村 律夫 島根大学, 教育学部, 教授 (30144687)
廣瀬 孝太郎 福島大学, 共生システム理工学類, 特任助教 (60596427)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 瀬戸内海 / 貝形虫分析 / 燧灘 / 播磨灘 / 粒度分析 / XRF分析 |
研究実績の概要 |
今年度は瀬戸内海の中央部にあたる燧灘の西条市沖で,長さ1.5 mの押し込み式コアラーにより,2カ所から3本の柱状堆積物を採取した.これらの柱状堆積物の貝形虫分析,粒度分析,XRF分析,14C年代測定を行った結果,1960年代の高度経済成長期にCu, Pb, Znなどの濃度が急増し,環境基準値も超えていたことが明らかになった.また,この変化と調和的に堆積物の粒度が粗くなり始めた.これは沿岸の護岸工事等の影響を受けた結果であると推定される.また,貝形虫に関しては,1960年代まで有機汚濁や富栄養化に耐性の弱い種が普遍的に存在していたが,1960年代以降,それらはほぼ消滅し,有機汚濁や富栄養化に耐性の強い種の密度が高くなり,現在は多様性の低い群集から構成されていることが明らかになった.このような変化はこれまで研究してきた播磨灘や周防灘の結果と極めて類似していた. さらに,播磨灘北部の錦海湾周辺ですでに採取され,研究室に冷凍保管されていた柱状堆積物について, 14C年代測定の層準を増やし,高時間分解能で貝形虫分析を行った.結果として,以下の4点が明らかになった. 1)約2100年前以前は日本全国の内湾奥に普遍的な種が卓越する多様性の低い貝形虫群集が存在した.2) 約2000年前と約1000年前に藻場に生息する種が多産し,均衡度が高かった.前者は弥生温暖期,後者は中世温暖期のピーク時に相当し,堆積物の粒度も比較的粗く,水循環が良かった可能性がある.3)約1600年前は現在ほとんど見られない種を含む群集が存在した.4) 小氷期から現在にかけては,有機物濃度が高い底泥に生息する種が増加し,最終的に人為的な富栄養化・有機汚濁の影響を受けて,単調な群集へ変化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定通り燧灘で3本の柱状堆積物試料と10地点から表層堆積物試料を採取することができた.特に柱状堆積物試料に関しては,年代測定,粒度分析,貝形虫分析の他,重金属濃度のXRF分析も行うことができた.また,播磨灘の柱状堆積物に関しても,年代測定と貝形虫分析のための試料数を増やすことによって,時間分解能の高い変化を復元することができた.他にも瀬戸内海のこのような変化と比較するため,日本沿岸のいくつかの閉鎖的海域において同様な研究を進めることができ,多くの成果が得られている.以上のような関連する成果について,今年度は数編の論文と学会発表を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は本研究の最終年度である.当初の計画通り,伊予灘西部にあたる別府湾北部の守江湾とその周辺海域で調査・試料採取を行う.守江湾の干潟はカブトガニの生息場所にもなっており,近年の環境変化がカブトガニを含め,様々な生物に影響を与えてきたことを解明できることが予想される.守江湾では10地点で表層堆積物を,2地点で柱状堆積物を6月初旬に採取する予定である.その後,貝形虫分析,珪藻分析,年代測定,微量元素分析,XRF分析等を順次行い,環境や生物の時系列変化を明らかにする予定である.最終的にこれまで得られた瀬戸内海に関するデータを統合し,学術論文や学会等で成果を公表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越金の53,073円は論文の別刷り代金として年度末に支払う可能性があったので,別刷りが届くのを待っていたが,決済に間に合わず,繰り越すことになった.
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は平成27年度に行う予定の瀬戸内海西部地域の海図の購入や,平成27年度の論文別刷代に使用予定である.
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