研究課題
基盤研究(C)
本研究計画の申請に先駆けて北部ベトナムで実施した予備調査と本研究の初年度前半の研究成果を複数の学術誌に投稿した.このうち下部三畳系バックテゥイ層から得られた二枚貝とアンモナイトの産出報告については,古生物学分野の国際誌「Paleontological Research」に掲載され,バックテゥイ層の堆積環境やスミシアンとスパシアンの境界層(S-S境界)の報告については,地質・堆積学分野の「Sedimentary Geology」に受理された.上記の研究では,S-S境界で汎世界的に生じた可能性がある海洋無酸素事変について,テチス海東域で生じていたベトナムの事例をもとに報告し,この影響下で生息していた二枚貝やアンモナイトについて記載した.さらにランソン省の様々な地域に露出しているバックテゥイ層の総括的な研究を進めて,前期スミシアン~前期スパシアンのアンモナイト,巻貝,二枚貝とコノドント,放散虫,オストラコーダなどの分類学的な研究を行ない,その成果を国立科学博物館のモノグラフとして出版する準備を進めている(印刷中).このモノグラフでは,アンモナイトとコノドント生層序によってS-S境界を含む地質年代を厳密に検討した上で,様々な分類群を用いて,前期スミシアン~前期スパシアンの生物相の変遷や群集構成について検討した.その結果,少なくともアンモナイトとコノドントはスミシアン末期に種の多様性が著しく低下していることや,スパシアン末期の放散虫化石群集は“古生代型”の放散虫からなっていること,スパシアン末期の海洋無酸素事変を記録した層準から産出するアンモナイトと二枚貝,コノドント,オストラコーダは,単一の種や属が優占的な群集構成を成していることなどが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
本研究助成を受けたことで,三畳系の地質調査が広域的に実施でき,ベトナムの化石試料だけではなく,アジア各地から産出する化石試料の採取やタイプ標本の観察ができた.また,電子顕微鏡と化石のクリーニング機器に必要な消耗品,微化石の処理に必要な薬品類などを大量に購入できたおかげで,当初の計画以上に研究が進み,データの精度も飛躍的に向上した.その結果,予定よりも早く論文を投稿できたため,一部の論文はすでに出版あるいは受理されている.また,“研究実績の概要”で記した論文以外にもすでに掲載された論文や投稿中の論文もあり,今年度の研究の達成度は研究企画時の予定以上であった.なお,本研究は下部三畳系とデボン~石炭系の2つのサブテーマで研究を進めてきた.サブテーマごとに研究の達成度を評価すると,下部三畳系の研究は,上述したように予想以上の成果が得られた.さらにこれらの研究を通じて新たな研究テーマや予想していなかったデータも出ており,今後の研究が期待できる.一方でデボン~石炭系の研究は,予定通りの進行状況であるが,当初予想していたよりも微化石(コノドント)の保存状態が悪い層準や地域があるため,今後の追加試料の採取や新たなセクションを探す必要が生じており,下部三畳系の研究ほど順調とは言えない.
〔三畳系〕下部三畳系の研究については,現在の研究ペースを維持する.バックテゥイ層については,より詳細な地質年代と古環境を明らかにするための各種同位体比の測定用試料と微化石抽出用の試料を採取し,これらの分析を進めた上で学会での講演や論文の執筆を目指す.また,バックテゥイ層の上下の三畳系やベトナム各地に分布するバックテゥイ層相当層についても時間の許す限り研究を行う.なお,下部三畳系の上位に重なる中部~上部三畳系でも二枚貝をはじめとする多数の化石試料を採取できたため,これらの化石についても追加試料の採取や今後の研究の進め方を検討し,三畳系全体を通じた古環境や海洋生物相の変遷について考えていきたい.〔デボン系~石炭系〕デボン系~石炭系の調査のうち,現地での再調査や微化石の追加試料が必要なのは,北部ベトナムのハーザン省ドンバン地域に分布する上部デボン系のフラシニアン期からファーメニアン期境界付近のデータである.この地域については,来年度の前半に再調査を実施し,早い段階で微化石試料の処理を進め,両期の境界を特定した上で安定炭素同位体比などの分析を進める.また,フラシニアン期~石炭紀の良いセクションがハーザン省の東にあるカオバン省や中部ベトナムに分布していることが分かったため,これらの地域の調査を実施することも検討中である.
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Sedimentary Geology
巻: 300 ページ: 28-48
Journal of Systematic Palaeontology
巻: 12 ページ: 401-425
Paleontological Research
巻: 17 ページ: 1-11
Palaeontology
巻: 56 ページ: 381-397
御所浦白亜紀資料館報
巻: 14 ページ: 17-23