研究課題
2013年までに実施した北部ベトナムの下部三畳系の調査結果を300ページ以上に達するモノグラフとして国立科学博物館から出版した(2013年受理後2014年出版).2014年度はこれらのデータに加えて,インデュアン―オレネキアン境界の特定やスミシアン―スパシアン境界を中心に安定炭素同位体比の分析や有機炭素量の測定などを行ない,これらの時代境界で海洋無酸素事変が生じていたことやコノドントやアンモナイトなどの分類群で絶滅事変が起こっていた可能性を明らかにした.これらの成果は,すでに複数の論文としてまとめており,その一部はすでに当該分野の学術誌に投稿中である.また,これらの研究成果については,日本古生物学会のシンポジウムや一般講演でも公表した.なお,デボン紀―石炭紀境界やデボン紀末の海洋無酸素事変に関する研究も2013年までの研究成果を論文として公表した.2014年度の地質調査は,2014年5月,7月,10月,12月と2015年3月などに北部と中部ベトナムに分布するデボン系や三畳系で実施した(このうち数回の調査は私費で実施).三畳系の地質調査は,予定通り進み,ベトナム各地の下部三畳系からコノドントやオストラコーダなどの微化石やアンモナイト,二枚貝などの化石を多数採取することができた.さらに研究が進んでいなかったハノイ近郊の中生界の調査も予察的に実施した結果,上部三畳系の非海成層~浅海層が分布し,植物化石や二枚貝,アンモナイトなどが産出することが明らかになった.しかし,フランスニアン―ファーメニアン境界を含む上部デボン系の研究では,地質年代を決める上で重要なコノドント化石の産出量が少なかったため,追加試料の採取が必要となった.上部デボン系の調査は,2015年度の課題である.
1: 当初の計画以上に進展している
北部ベトナムの下部三畳系オレネキアン階の古生物学・層序学・堆積学分野の調査結果を国立科学博物館のモノグラフや古生物学分野の国際誌(Paleontological Research),日本国内の和文雑誌などに投稿し,デボン紀―石炭紀境界やデボン紀末の海洋無酸素事変に関する研究成果も学術論文としてすでに国際誌(Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology)に公表することができた.また2015年度に投稿予定の研究成果もすでに論文の執筆が順調に進んでおり,研究は当初の計画以上に進んでいる.
2015年度は,これまでの下部三畳系の研究成果を学術論文として公表する事と上部デボン系の調査が最重要課題である.下部三畳系の研究成果のうち,スミシアン―スパシアン境界の複合生層序(アンモナイト・コノドント生層序と安定炭素同位体比層序)の確立とこの境界で生じた海洋無酸素事変に関する研究成果を国際誌に投稿することや,新たに発見したコノドントと放散虫,オストラコーダなどの化石を記載し,今後の研究に繋げることを目指す.また,研究協力者が所属するベトナム国立自然博物館の開館10周年に伴う論文集の執筆と編集を依頼されているため,研究成果の一部はこの論文集でも公表する予定.ベトナムでの調査は,中部と北部ベトナムに分布する上部デボン系のフランスニアン―ファーメニアン境界(F-F境界)付近を中心として,コノドント抽出用の石灰岩試料と化石の採取を行ない,コノドント化石でF-F境界を特定した上で,安定炭素同位体比の分析や有機炭素量の測定,有機炭素分析などを進める.なお,北部ベトナムハーザン省のF-F境界付近では,コノドント以外の化石がほとんど産出しなかったものの,F-F境界よりも下位の層準ではテンタキュロイドが比較的多産していたため,この化石の採集や最終産出層準の確認に努める.ベトナムでは,古生物学者の高齢化が進む半面で,この分野や野外調査のできる若手研究者が不在であるため,研究協力者側からは今後も日本との共同研究やそれらの成果を活用した博物館の展示作成などを求められている.そのため,2016年以降の具体的な共同研究や活動についても相談する予定である.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
巻: 404 ページ: 30-43
化石
巻: 96 ページ: 1-2
地質学雑誌,121, 59-69
巻: 121 ページ: 59-69