研究実績の概要 |
本研究は日本産古生代後期の有孔虫化石の生層序分布や属・種単位での群集組成をもとにして、地域間・地帯間におけるそれらの属・種多様度、群集組成の相違や相関関係を明らかにし、古生物地理の視点から海外の同年代のものと比較することにより、それらの意義と特性を明らかにすることを目的としている。筆者の45年以上の研究体験と最近の国際的な研究動向から、最近3年間は研究素材が豊富な秋吉石灰岩層群の、特に石炭系-ペルム系境界層に的を絞り、野外調査と石灰岩サンプリングを行った。石灰岩岩石薄片と顕微鏡観察、フズリナ類と石灰岩相のデジタル画像作成を行い、文献調査と並行して、筆者の手元にある国内外のそれらと比較検討した。秋吉以外では、飛騨外縁帯や美濃帯の石灰岩でも同様な調査・研究を進めている。最近3年間の野外調査は31日、採集石灰岩サンプルは約650点、作成薄片は11,618枚に達する。それらの多くは秋吉石灰岩のものである。薄片作成に多大な時間を要した。秋吉石灰岩での成果は以下のように要約される。 秋吉石灰岩若竹山周辺の上部石炭系(Moscovian)から下部ペルム系(Asselian)は12のフズリナ化石帯に区分され、国際対比に有用な多くの化石記録が保存されている。同一の化石帯が何度も繰り返し現れることなどから、同地域の地質構造は以前考えられていたよりもはるかに複雑であること、秋吉石灰岩の少なくても東半分は大局的に逆転していることがフズリナ生層序から明らかになった。AkiyoshiellaやCarbonoschwagerinaに代表される環太平洋域に特徴的なフズリナ属は古太平洋のプレート運動論や東アジアの造構論に制約条件を与える。有孔虫多様度は下位の5化石帯で低く、その後徐々に高くなり、ペルム系最下部(10番目の化石帯)で極大になる。この結果はフズリナ類の進化・適応放散と深く関わっていると考えられる。
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