研究課題/領域番号 |
25400505
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
黒田 潤一郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 主任研究員 (10435836)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古海洋 / 蒸発岩 |
研究概要 |
本研究では,地球史の中で中生代~新生代の蒸発岩体に注目し,その蒸発岩(岩塩や石膏)の化学分析を行って蒸発岩形成プロセスを理解することが目的である.初年度は,中新世の地中海メッシニアン塩分危機で形成されたシチリアの岩塩と石膏,紅海の掘削で採取された岩塩,後期白亜紀に形成されたタイの岩塩,および年代不明のタイの石膏を採取した.これらの蒸発岩類の基礎的岩石記載,主要元素,微量元素分析を行った.また,微量領域分析装置を用いて流体包有物の化学組成を測定する方法の確立に取り組んだ.この結果,海水の成分が大部分を占める蒸発岩類と陸水の影響が無視できない蒸発岩の識別できるようになった. また,地中海の中新世堆積物のオスミウム同位体分析を行った結果,地中海で蒸発岩が形成される際の北大西洋と地中海との海水の交換の歴史が明らかになった.オスミウム同位体比は新第三紀を通してゆるやかに上昇しており,その比はどの海洋でもおおむね同じ値となっている.地中海が大西洋と繋がっていれば,グローバルな海水のオスミウム同位体比が地中海堆積物に記録される.しかし,大西洋とのコネクションが途切れれば,地中海の堆積物のオスミウム同位体比はグローバルな海水のオスミウム同位体比からずれる.この原理を応用して,過去のハイドロロジーの変化を明らかにすることができた.今年度はシチリアの調査を基に地中海のメッシニアン塩分危機の研究に関する論文を1本(地質学雑誌)に投稿して掲載が決まった.また地中海のハイドロロジーに関する論文を執筆し,投稿準備を進めている.この成果を国内の学会で4発表,海外の学会で2発表おこなった.次年度は,さらに流体包有物の化学分析を精力的に行って過去の海水の組成を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2013年度は,試料の採取と分析手法の確立を重点的に行い,順調に当初予定を遂行させることができた.特筆すべきは中新世の地中海メッシニアン塩分危機で形成されたシチリアの岩塩と石膏を通常では入山できない鉱山に入って採取できたことである.また,過去の掘削で紅海で採取された岩塩が入手できたことも特筆すべき点である.政治上の問題から最近では紅海での掘削は極めて難しく,貴重な試料を得ることができた.また,後期白亜紀に形成されたタイの岩塩,および年代不明のタイの石膏を採取することもできた. これらの貴重な蒸発岩類を用いて,古典的な岩石記載,主要元素,微量元素分析を行って基礎的な情報を得た.その一方,最先端の微量領域分析機器を用いて流体包有物の化学組成を測定する方法の確立に取り組んだことは2013年度の重要な成果の一つである.この結果,海水の成分が大部分を占める蒸発岩類と陸水の影響が無視できない蒸発岩の識別できるようになった. また,地中海の中新世堆積物のオスミウム同位体分析を行った.この結果,過去のハイドロロジーの変化を明らかにすることができた.今年度はシチリアの調査を基に地中海のメッシニアン塩分危機の研究に関する論文を1本(地質学雑誌)に投稿して掲載が決まった.また地中海のハイドロロジーに関する論文を執筆し,投稿準備を進めている.この成果を国内の学会で4発表,海外の学会で2発表おこなった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,追加での蒸発岩類の収取を行う.また,最重要の課題として流体包有物の化学分析を精力的に行う.特に,Cryo-SEM-EDS, Cryo-FIB-SEM-EDS, LA-ICP-MSといった最先端の微小領域分析装置を駆使し,蒸発岩の流体包有物から過去の海水の化学組成を復元する手法を確立する.2013年度の研究では,流体包有物の分析を予察的に行って「陸水の影響の有無」を評価する方法を検討した.これをさらに高精度・高確度分析に発展させて,過去の海水の化学組成を復元する手法を構築できる見通しが立った.微小領域の化学分析の高精度化・高確度化は分析化学の長年の課題であるが,上記の3つの分析機器を駆使することで,これまでにない高精度・高確度分析が可能になると確信している. 2014年度は,これらの新しい成果を積極的に情報発信(論文投稿・学会発表)する予定である.
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