研究課題/領域番号 |
25400506
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長瀬 敏郎 東北大学, 学術資源研究公開センター, 准教授 (10237521)
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研究分担者 |
栗林 貴弘 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20302086)
宮本 毅 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (90292309)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アモルファス・結晶中間体 / 鉱物 / 結晶成長 / 鉱物組織 / 透過型電子顕微鏡 / 準安定相 |
研究概要 |
申請者がこれまでに採取した試料に加え,新たに秋田県北鹿地域,和歌山県串本地域,東京都小笠原などの野外調査を行い,研究対象であるアモルファス・結晶中間体鉱物を含む試料を採取し,その産状を観察した。これによりアモルファス・結晶中間体の生成環境についての多くの情報を得ることができた。採取した試料は薄片を作製し偏光顕微鏡による組織観察をおこなった。そして,結晶学的特徴を明らかにするために,透過型電子顕微鏡観察,赤外線分光法,X線粉末回折法による解析をおこなった。また,化学分析には電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)と透過型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散型X線分析装置(AEM)を用い,ミクロからナノ領域の分析を行い、詳細に解析した。 以上の観察結果により,比較的低温い熱水下での難容性鉱物の晶出の初期段階にアモルファス・結晶中間体が出現することが確認された。また,アモルファス物質から安定相への再結晶の過程においてもアモルファス・結晶中間体が準安定条件下で出現することが確認された。アモルファス・結晶中間体は熱力学的には準安定な状態である。このような準安定な状態が存続する理由にはその結晶構造の安定性が深く関わっており、シリカ鉱物では構造中の“水”が,有機物からグラファイトへの相転移においては水素が深く関与していることを示唆する結果が得られた。これについては次年度に更なる検証実験をおこなう。研究成果は、鉱物科学会で進捗状況を発表し,一部は論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り野外調査を実施し,観察試料を採取できた。さらに,研究に適した試料の新たな産地の情報を得たので,この調査による支出が多くなり,全体における野外調査の割合が増加している。これは研究を進行上必要な計画変更であり,結果的により多くの知見が得られており,本研究の目的を達成する上で有効な計画変更である。解析の対象となる試料が増えた分また野外調査に時間を費やした分,結晶学的な解析が少し遅れているが,これまで得られた結果は研究仮説を支持しており,解析の遅れが問題とは考えていない。また,本研究により得られた新たな知見も国内外の学会にて発表できるまで進展しており,本研究と関連する一部は論文としても公開した。以上のことから研究の目的に対して,調査並びに実験はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実験結果を踏まえ、調査・試料採集地域を増やして野外調査からのアモルファス・結晶中間体の生成条件についての情報を増やすとともに,多様なアモルファス・結晶中間体試料を採取することを目指す。低温熱水での鉱物沈殿物を採取し生成環境を詳細に観察する。そして、天然試料の観察をおこないつつ、野外調査ならびに試料観察から得られた知見にそって合成実験を行い、天然のアモルファス・結晶中間体の形成を再現する。そして合成実験で得られた試料と天然試料が同じ特徴をもっているかどうかを検証し、天然での試料と比較することにより、その再現性を確かめ、次の理論解析のデータとする。 この年度は、アモルファス・結晶中間体の化学的安定性に重点を置いて研究を行う。アモルファス・結晶中間体が生成には不純物が関与していると考えられている。その例として、炭酸カルシウムのアモルファス・結晶中間体の生成にはMgイオンが、ZnS系鉱物にはCuイオンが挙げられる。このような化学的な効果が結晶構造に対して、あるいは成長過程に対して、どのように働いているかを明らかにし、構造の安定性と対応させる。マクロ的な化学組成分析は電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いる。また、アモルファス・結晶中間体の多くはナノ粒子であり、結晶内の組織も均一ではない。より詳細な情報を得るためにはナノレベルでの分析が必要であり、エネルギー分散型X線分析装置を有したTEM(AEM)や走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いる。 研究成果は、鉱物科学会などの国内学会で進捗状況を発表する。また得られた成果について国内の研究者と議論し、新たな知見を得るために学会に積極的に参加する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実施計画に従い当初の計画した地域を調査していたが,研究を遂行している過程での文献調査ならびに学術学会出席により最新の発表などから,研究に適した野外調査地域を新たに発見ならびに情報を得た。新たな調査地域は,本研究により適した試料が採取できるということで,和歌山県串本や長野県小谷,島根県玉造,東京都小笠原などの調査地域を新たに加える必要性がある。野外調査の割合が増えたため,室内での観察実験の割合が減り,実験補助等の予算が繰り越しとなったが,これらの野外調査により,研究により適した試料を入手できること,ならびに産状の観察から重要な情報が得られることなどから,計画の変更による本研究に与える支障はない。 次年度使用額は一部を野外調査旅費として使用する計画である。研究の遂行上,野外調査より得られる情報が重要であることがわかり,また研究試料として適した産地が新たに見いだされたことで,野外調査旅費を増額する予定である。もちろん,今年度に行えなかった室内観察実験についても次年度当初に行う予定である
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