研究課題
今年度は、伊豆弧、三宅島、および九州ー琉球弧、また中部地方菅平近郊の火山において灰長石巨晶および母岩の岩石学的、鉱物学的、地球化学的研究を試みた。伊豆七島の三宅島赤場暁に産する灰長石巨晶中心部の劈開が無くガラス質な部分を単結晶構造解析したところ、長石の結晶構造の四面体席を占有するAlとSiが完全に無秩序配列した構造であることが判明した。通常灰長石においてはアルミニウム排除則によりAlとSiは秩序配列しているが、今回はじめて準安定な状態を示す長石の新しい構造が示された。鹿児島県竹島産灰長石巨晶について、結晶化学的な分析をおこなった。その結果、竹島産灰長石巨晶は、同じく鬼界カルデラの薩摩硫黄島に産する灰長石巨晶とほぼ同様の結晶化学的特徴を有することが判明した。さらに巨晶の元素面分析から、結晶成長形に沿って配列した微小包有物に対応して比較的大きな組成変動が見られるものの、それ以外のほとんどの部分では極狭い組成範囲での波動累帯構造が見られることが明らかになった。長野県、菅平西方の第三紀後期の保基谷岳火山に産する淡黄色を示す灰長石を含む火山岩類の研究を実施した。灰長石巨晶は箱根火山産の結晶と同様な色、形態を示した。また元素分析の結果An90-92で結晶のゾーニングがあるにもかかわらず均一であった。本研究の目的でもある微小包有物は確認できたが、分析できるサイズではなく、顕微鏡下での確認にとどめた。また、灰長石結晶を砕き、洗浄した後、粉末にしICP-MSで元素分析した結果、Fe,Zn,Cu等の元素が検出された。この分析には問題点(微小包有物やメルトインクルージョンなどを全て除いているとは限らないなど)もあるため、再度行うことを考えているが、結晶構造中に上記元素が含有している可能性も示唆された。
2: おおむね順調に進展している
島弧火山の代表である日本列島に産する第三紀~第四紀の火山のある噴出物に特徴的に産する灰長石巨晶(アノーサイトメガクリスト)については、多くの記載やいくつかの研究がされてきたが、その結晶の成因に関しては未だ正確な結論には至っていない。今回、この研究で実施してきた伊豆弧、中部日本、九州ー琉球弧の火山に産する岩石学的、地球化学的、結晶学的研究を通して、今まで明確にされていなかった部分も明らかになってきた。結晶学的研究では、灰長石の元素配列に関すること、結晶面との包有物の分布の関連性などが明らかになってきた。また、微小のFeを含む硫化物の存在が明らかになり、その生成条件などが限定されてきた。また、保基谷岳産の灰長石等には微小包有物以外にもFe,Zn, Cuなどの遷移元素の存在が明らかになってきた。それらの結果は、巨晶生成時の親マグマを推定する上で重要な手がかりになると考えられる。また母岩の化学組成などの分析も行い、マグマ混合の可能性が示唆された点は、新しい成果である。また、結晶の色(淡黄色~白色)は、伊豆弧の火山産の結晶の色調と明らかに異なっており、含有する微量の遷移元素の存在が重要であるとの推測ができた。ただ、包有物の直接分析が、一部の硫化物を除き、今まで充分に行えて来なかった点は今後の課題でもあり、今後工夫して進めることを考えている。また同位体分析も局所的に行えなかった点が問題点として残るが、この点も工夫して分析を試みる。
今後は、今までの成果を基に、九州ー琉球弧火山、伊豆弧火山、中部地方の火山などの灰長石巨晶について、詳細観察、EPMA分析、ICP-MS等を用いた分析を引き続き行い、包有物の種類や形態等も含め、研究を行っていく。また、結晶構造や結晶の形態に関する分析や解析も引き続き行って行く。火山ごとに形態、色、結晶構造等、異なった灰長石結晶が産出していることについても、比較研究を行って行く。包有物と結晶構造、形態との関連性は興味にある問題であり、結晶の成長と親マグマの化学組成の関係を探る上で重要である。微小包有物の分析にはEPMA以外の新しい手法も試み、実施して行く予定である。また、灰長石結晶の大きくなる(1~3cm)理由やその生成条件等についても、得られた結果を基に考察・解析を進めて行く。親マグマの推定も重要な点でもあるので、母岩の全岩化学分析などの結果も参考にして行く予定である。これらの結晶は多くの場合、マグマ混合の結果として地表に噴出している場合が多いので、それらの端成分マグマの推定が行えれば、親マグマのより正確な推定に繋がる可能性もある。最終的に、島弧火山産の灰長石巨晶の成因、生成過程、特異性と普遍性について今まで以上に正確な議論ができるよう、新しい手法も含めた分析値の追加、比較・確認等も含め総合的に研究を行っていく。これらを基に、研究の総括を行って行き、今後他の地域等へも適応できるような原理・原則等を引き出すことを試みる。
当該年度予定していた野外調査が災害等の問題で計画通りに行えなかったことなどがある。
今年度はその野外調査を実施(あるいは現地の問題がある場合は他の火山に変更する)し、また、学生等に調査や室内実験で補助等を依頼する予定。また特定の分析等で他の機関の研究者に依頼することに使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 1件)
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