研究課題/領域番号 |
25400513
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
横山 正 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60403101)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 風化 / 溶解 / 水膜 / 不飽和 |
研究概要 |
地表付近では,降水・排水・乾燥が断続的に生じ,岩石の間隙中は水と空気が混在した不飽和状態になる.鉱物と水が接触すると溶解や沈殿などの反応が起こるが,間隙に空気が入っている場合でも間隙表面には水膜が存在し,その水膜中で反応が進む可能性が指摘されている.本研究では,岩石内部で水膜がどのような状態で存在し,それを介した反応がどのように進行するかを明らかにすることを目的としている. 多孔質な流紋岩のコア試料を用意し,間隙を予め水で飽和させた場合と,試料を乾燥させて間隙に水が入っていない場合のそれぞれにおいて,試料中に純水を一定水圧下で透過させて溶解挙動を調べる「透水溶解実験」を行った.乾燥試料に水を流した場合は,一部の間隙には水が浸入するが全ての間隙が水で満たされることはなく,不飽和状態になった.岩石内部では,水で満たされた部分と水膜で覆われた部分とで鉱物の溶解が起こり,溶出した元素を含んだ溶液が岩石から流出する.飽和状態,不飽和状態のそれぞれについて,流出した溶液中の元素濃度を測定して溶解量を調べた.また,不飽和状態の実験では,ときどき試料の重量を測定して含水量を算出し,間隙が水で満たされる割合(水飽和率)の経時変化も調べた. 不飽和/飽和反応面積比は,不飽和状態で得られる溶解速度を飽和状態で得られる値で割ることにより算出できる.反応開始後14日が経過した時点において,反応面積比は61-83%であったのに対し,水飽和率は48%であった.反応面積比が水飽和率よりも大きいことから,少なくとも間隙表面全体の13-35%においては水膜を介した反応が起こっていると推定された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は,不飽和状態と飽和状態の反応面積の違いを調べるための実験・解析手法の確立が主な目的であった.透水溶解実験において,後に行った実験における溶解速度の方が前に行った実験で得られた値より小さくなることが多いという問題があり,飽和/不飽和反応面積比の過大評価もしくは過小評価につながっている可能性があった.このため,飽和→不飽和→飽和という順番で同じ試料を用いた実験を行うことにより,反応面積比の最大値と最小値を見積もった.これにより,実験結果の解釈の妥当性が大きく向上した.その他実験装置の工夫を含めて,実験手法の確立の目的は概ね達成できたと言え,今後この手法を他の岩石にも応用していく準備が整った.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究では,流紋岩を用いて飽和状態/不飽和状態下の透水溶解実験を行って,間隙に空気が入っている場合でも間隙表面の水膜を介して溶解が起こることを確認した.今後は,水膜中の溶解に対して,造岩鉱物の種類や粒径,間隙構造(間隙率,間隙のサイズ,連結性)などがどのような影響を及ぼすかを調べるために,流紋岩とは異なる岩石を用いた実験を行っていく.具体的には,長石や粘土鉱物を含んだ砂岩,あるいは安山岩や玄武岩などを用いることを検討している. 流紋岩を用いた実験において,14日間の不飽和状態での反応期間中,反応面積が徐々に増加することが分かった.これには,間隙表面の水膜厚さの増大,固体表面状態の変化,間隙中の空気の溶解や移動などが関係している可能性があるが,その原因は現時点では不明である.このような濡れが広がるメカニズムや速度を明らかにすることは不飽和状態における反応や物質移動を理解する上で重要であり,まずは流紋岩を用いて濡れ拡がり方の詳細を調べるとともに,他の岩石についても同様の実験を進めていく. これらの結果を通して,地球表層の岩石-水反応において水膜が果たしている役割の総合的な理解を目指す.
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