研究実績の概要 |
前年度に,Berea砂岩を用いて,岩石内部に水を透過させて溶解量を測定する実験を飽和・不飽和両状態下で行った結果,飽和状態と比べて,不飽和状態におけるSiの溶解量は約半分になった.一方,Fontainebleau砂岩を用いた同様の実験(Nishiyama and Yokoyama, 2013)では,不飽和状態であっても間隙表面を濡らす水膜を介した溶解が十分に起こり,不飽和状態と飽和状態で溶解量の違いが見られなかった.不飽和状態下の溶解挙動の違いの原因を,水膜中の元素の溶解と拡散を考慮する理論モデルを用いて考察した.モデルでは,鉱物粒間に気泡があり,鉱物表面は水膜で濡れた状態を想定し,1本の管の内壁を水膜が覆い,管の両端は低濃度の主流路に連結した状態を考えた.水膜中の元素濃度と溶解速度を計算した結果,水膜の厚さが薄いほど,また,溶出した元素が主流路に到達するまでの距離(拡散距離)が長いほど,全体として濃度が上がり溶けにくくなることが示された.水膜の厚さは,Berea砂岩では7-40 nm,Fontainebleau砂岩では7-18 nmと見積もられ,Berea砂岩の方が少し厚い.拡散距離には,鉱物粒径と鉱物表面の粗さが関係する.このうち,粒径はBerea砂岩の方が少し小さいが(Berea砂岩:約150μm,Fontainebleau砂岩:約200-300μm),表面粗さはBerea砂岩の方が約5倍大きい(BET法で測定した比表面積を元に算出).このため,Berea砂岩の方が拡散距離が長く,その影響で不飽和状態において溶解しにくかったと考えられる.これらの結果から,一般に不飽和状態下の岩石の溶解の起こりやすさは,表面粗さの違いの影響を大きく受けると推察される.
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