研究課題
本年度は、中性子回折による情報と相補的な情報を与えるX線回折による構造解析を行った。測定試料は、中性子回折実験にも用いた無水、含水(重水置換)NaAlSi3O8ガラス(含水量7.5 wt%)とした。含水ガラスは愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター設置の3000 ton油圧プレスを用いて、約3 GPaの圧力で合成し、無水ガラスは一気圧1300℃で同組成となるよう秤量された酸化物粉末を溶融し、大気中で急冷することで作製した。測定にはSPring-8, BL04B2ビームラインの単色X線による角度分散法を用いた。エネルギーは61.37 keVに設定し、最高測定散乱ベクトルQmaxは25 A-1となるよう測定を行った。得られた構造因子をフーリエ変換し、無水、含水ガラスの動径分布関数およびそれらの差動径分布関数(無水ガラスの動径分布関数から含水ガラスのそれを引いたもの)を求めた。無水、含水ガラスの動径分布関数は、共に非常に良く似たパターンを示した。しかしながら、差動径分布関数中におよそ1.6 A付近に見られる負のピークは含水ガラスのSi, Al-O配位多面体における原子間の結合距離の存在度が相対的に小さいことを示している。これに対して、この負のピークの両側ではブロードな正のピークが見られた。これらはつまり、本ガラスの局所構造単位であるSi, Al-O四面体が無水ガラスでは含水ガラスより歪んだ形状をとっており、Si, Al-O結合距離に多様性があることを示唆する結果と言える。残念ながら25 A-1までの構造因子を用いた構造解析では動径分布関数中のSi-O, Al-Oの結合ピークを明瞭に分離するまでには至らなかった。これについては、以前に収集した中性子回折による構造データと比較を行い。詳細な構造情報を得る必要がある。
2: おおむね順調に進展している
本年度までに無水、含水ガラスについて、中性子回折、X線回折測定を終えることが出来た。また、圧力下での溶融珪酸塩の中性子回折実験のためのビームタイムが既に採択されており、本年度中に実験予定である。よって本研究課題は概ね予定通り進行していると考えられる。
本年度は、これまでに得られたガラス試料の高圧中性子回折実験のデータ解析をすすめ、動径分布関数による構造評価を行う。また、今年度J-PARCにて採択された溶融珪酸塩の高圧中性子回折実験のための技術開発を行い、世界初となるデータの取得を目指す。
当該年度は、J-PARCにおける事故、その他運転トラブルの関係で大幅にビームタイムが削減、遅延されたことにより、J-PARCでの実験を行うことが出来なかった。これにより中性子回折実験に係る経費に若干の未使用部分が生じた。
本年度はJ-PARCでのビームタイムを既に申請、採択されている。次年度使用額は中性子回折実験およびそれに向けた予備実験の経費に充てる。
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固体物理
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Review of Scientific Instruments
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巻: 780 ページ: 55-67