研究課題
基盤研究(C)
研究対象とした2つの変成岩類である山口県の領家変成岩類と熊本県の天草変成岩類に分けて成果を記載する。まず,山口県の領家変成岩類では,広範囲にわたる変成分帯を完成させた。その結果,最高変成度地域であるザクロ石-菫青石帯が西方で消滅し,2番目に高変成度の珪線石-カリ長石帯がザクロ石-菫青石帯を取り囲むように分布することが明らかになった。岩相境界は大局的に東西でありながら,これに大きく斜交する分帯となった。沈み込み帯で形成される変成帯の多くは,変成分帯と岩相がほぼ平行であることが多く,今回明らかになった特徴は今後詳しく検討する価値があると考えられる。さらに,これらの帯の温度圧力を既存の温度圧力計および,相対地質圧力計を用いて推定した。その結果,両方の帯の中で,温度圧力の値が大きく変動し,西方ほど低温低圧になる傾向が明らかになった。当初予想したように,この温度圧力構造は,Field P-T curveという従来の変成相系列の概念と相容れない構造であり,その原因を解明することは変成相系列,変成条件の多様性という変成作用の根幹に関わる問題を扱うこととなる。次に,熊本県の天草変成岩類について,当初は初年度には対象としない予定であったが,予察的に野外調査を行なった。下部地殻での歪みの集中帯ではないかと予想していたところの試料採集と薄片観察を行ない,特定場所のみに歪みが集中しているのではないことがわかった。また,天草変成岩類の温度圧力,その勾配,予察的な年代測定値を,天草変成岩類が下部地殻の流動を記録しているであろうという仮説に基づいて解釈した,当該研究の出発点となった成果を論文として公表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,下部地殻を代表する天草変成岩類と,中部地殻を代表する領家変成岩類の温度圧力構造,変形履歴,形成年代を明らかにして,マントルの流動に地殻がどのように応答するのかを明らかにすることを目的としていた。初年度の計画として,領家変成帯の変成分帯,温度圧力構造の解明,年代測定,熱モデル作成を考えていた。変成分帯の結果や,温度圧力構造は,「研究実績の概要」で述べたように,非常に重要な問題を内蔵していると考えられる。その意味では,当初の計画以上の成果を挙げたと判断される。また,予察的ではあるが天草変成岩類の変形構造の記載を行なったことも,当初の計画以上と判断できる。しかし,計画時にも懸念していたように,領家変成岩類の変成分帯に付随する相平衡岩石学的な諸問題の解決に時間がかかり,年代測定以降の研究には着手できなかった。その一方で,岩石微細構造,特にザクロ石の化学組成の累帯構造から変成作用の継続時間を推定する手法の手がかりを得ることができた。これを用いることによって,次年度以降には,絶対年代に加え,変成作用の継続時間という異種の情報を得られる可能性が出てきた。特に領家変成岩類は,同じ鉱物帯でありながら温度圧力に大きな幅があり,場所によって高温の継続時間が異なる可能性がある。このことは,熱の供給過程に大きなヒントを与えると期待される。以上のことを総合的に考慮して,「おおむね順調に進展している」と判断した。
まず,初年度で明らかにした山口県の領家変成帯の変成分帯と温度圧力構造の成果を論文化する。この際に,従来から重要視されてきた field P-T curve の意義や,変成相系列に基づく変成帯の分類の意義を十分に吟味する必要がある。次に時間スケールを明らかにするために,当初計画していた年代測定に最適な試料を選択し,測定手順に入ると同時に,変成作用の継続時間を推定する手法のさらなる開発を進める。現段階では,単純化した想定のもとでの近似にしか成功していないので,もう少し具体的に定式化することを試みる。定式化に成功すれば,領家変成岩類と天草変成岩類に適用することによって,地殻の中部および下部における変成作用の継続時間を推定する。これらの情報が獲得されれば,包括的に説明できる熱モデル構築に着手する。
初年度に予定していた年代測定が,計画の遅延によって実施できなかった。初年度の年代測定にかかる経費を使用しない分が次年度使用額として生じた。当該年度で年代測定によって使用する予定である。
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