研究課題
研究対象とした2つの変成岩類である山口県の領家変成岩類と熊本県の天草変成岩類に分けて成果を記載する。山口県の領家変成岩類について,当初計画では今年度に年代測定を実施する予定であった。前年度の成果として,変成分帯の確立と温度圧力条件の推定を行なった。その過程で,ザクロ石に見られる化学組成の累帯構造から,変成作用の継続時間の推定という新たな着眼点を得た。そこで,今年度は年代測定の代わりに,継続時間推定の手法確立と,試験的に最高変成度の変成岩にこの手法を適用して継続時間を推定した。その結果,高温継続時間はおおよそ1,400万年となり,大陸衝突を数値計算した既存の論文が示す高温継続時間の約10分の1となり,領家変成作用が非常に短時間で生じた地質現象である可能性が見えてきた。ただし,開発した手法に用いた仮定の検証など,検討課題は数多く残されている。次に,熊本県の天草変成岩類について,当初は初年度には対象としない予定であったが,1試料について年代測定を実施した。約1GPaの高圧下で部分融解を経験した酸性の片麻岩を対象とし,その年代値は前年度に論文に公表した下部地殻由来と考えられる片麻岩の年代と誤差範囲内で一致した。いずれの試料のザクロ石も化学組成の累帯構造は均質化しており,高温条件下の滞在時間が相対的に長いことがわかっている。年代に差がないことから,部分融解の時期は高温継続の比較的初期に生じたものであると推定される。この年代値のもつ意義は,次年度に継続して議論していく。
2: おおむね順調に進展している
本研究では,下部地殻を代表する天草変成岩類と,中部地殻を代表する領家変成岩類の温度圧力構造,変形履歴,形成年代を明らかにして,マントルの流動に地殻がどのように応答するのかを明らかにすることを目的としていた。今年度の計画として,領家変成帯の年代測定を予定していた。しかし,初年度中に出てきた,変成作用継続時間を推定する手法開発に時間を充てたため,当初の計画は遂行されなかった。しかし,この手法開発はまだ粗いながらも判定量的に変成継続時間を推定することに成功しており,今後の年代測定と組み合わせることによって,変成作用の年代の絶対値のみならず,その前後の高温継続時間を知ることができ,さらにK-Ar法,Rb-Sr法などの閉止温度の低い年代測定と組み合わせることによって,領家変成作用の温度-時間履歴をより詳細に解析することができる道筋が見えてきたことは大きな成果と考えられる。さらに,当初の計画では天草変成岩類の年代測定は平成28年度実施を予定していたが,昨年度公表した論文の続編として新たに年代値を加えたことも成果である。天草変成岩類では高温の下部地殻物質と海溝付近の低温の下部地殻物質が衝突している。最初は後者の年代を決定すべく塩基性片麻岩からジルコン分離を試みたが,3試料粉砕して鉱物を抽出することができなかった。そのため方針を変更して,部分融解を経験した高温の珪長質片麻岩の年代測定を行なった。以上のことを総合的に考慮して,「おおむね順調に進展している」と判断した。
まず,変成継続時間の推定の手法にある程度の見通しが立ったので,これを確立する。そして,この手法をまず,山口県領家変成帯に適用させて,高温継続時間を推定する。可能であれば,その地理的違いを検知することを試みる。領家帯については,同時に初年度で明らかにした成果を論文化する。この際に,従来から重要視されてきた field P-T curve の意義や,変成相系列に基づく変成帯の分類の意義を十分に吟味する。天草変成岩類については,今年度得られた年代値の意義を吟味し,可能であれば論文にまとめる。さらなる年代測定が必要であれば,次年度に実施する予定である。
天草変成岩類の年代測定を前倒し実施するために前倒し請求を行なった。しかし,鉱物分離に困難が生じて予定通りの数量の年代測定ができなかったため,当該年度の使用額に余剰が生じた。
当初の計画では天草変成岩の年代測定は平成27年度に実施する予定であった。前年度に少数の年代測定しか実施できなかったので,当初の計画通り平成27年度に改めて年代測定の経費として使用する予定である。
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