研究課題/領域番号 |
25400518
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 剛 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40243852)
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研究分担者 |
宮崎 一博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (30358121)
外田 智千 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (60370095)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 圧力差 / 年代 / 低圧変成帯 |
研究実績の概要 |
本年度は,大きく2つの成果を挙げることができた。昨年度末に投稿した論文を国際誌に掲載できたことと,福岡県大牟田地域の低圧変成帯の年代と変成条件の情報をまとめることができたことである。 山口県柳井地域の領家変成帯において,昨年投稿した論文を今年度に入って掲載させることができた。福岡県大牟田地域に産する低圧変成岩類は,周防変成岩類を原岩とすることが推定されていた。また,白亜紀の花崗岩類に隣接するにもかかわらず,アイソグラッドは境界に斜交することから,変成作用の熱源については広域なのか隣接する花崗岩なのか判断できない状況にあった。今年度は年代学,相平衡岩石学の2つの視点から解析を進めた。 年代学的な研究により,含まれるジルコンの砕屑性年代が周防変成岩類のジルコンの砕屑性年代に一致することが明らかになった。このことから,従来地質学的に推定されていた原岩が周防変成岩という考えを年代学的にも確認することができた。 相平衡岩石学ての視点からは,2地点の試料の地質温度圧力計から求めた圧力値の差の誤差を正確に評価する手法を開発した。これを用いて,現在の2地点の距離は変成作用を被ったときの深さの差よりもはるかに小さいことを明らかにした。このことは変成作用後に地殻が薄層化したことを意味する。大規模な褶曲や断層は存在せず,この薄層化は変成帯上昇時の流動変形に起因することがわかった。このような変形は,隣接する比較的塊状の花崗岩の貫入では生じず,広域の低圧変成作用によることが明らかになった。大牟田地域についてのこれら2つの成果は,それぞれ別の論文として投稿し印刷中にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の28年度の計画は,大牟田の低圧変成岩類の解析であった。圧力差の誤差を評価する手法を解析できたことで,従来の解析精度以上の詳細な圧力差を見積もることができ,それだけで1つの論文とすることができた。当初予定の年代も論文としてまとまったことから,この地域の研究成果は予想以上のものである。 一方で,昨年度当初に予定していた,天草変成岩類の追加の年代測定は実施できておらず,次年度での実施準備に留まった。しかし,次年度(最終年度)に実施すべき作業についての準備は完了した。即ち,天草変成岩類は年代用のジルコン抽出と変成条件推定の試料選別を終え,最終年度での分析の準備が完了した。天草変成岩類との比較として,昨年度調査した唐崎マイロナイトについて,変成条件推定用の研磨薄片を作成した。これらを総合的に判断して「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が最終年度となる。そのため,研究課題の「低圧変成帯の温度圧力構造と島弧地殻のダイナミクスの解明」に意義ある成果をまとめる必要がある。 前述のように,解析し残ったのは天草変成岩類の年代(とその試料の温度圧力決定),比較として唐崎マイロナイトの温度圧力決定である。これらは試料準備も整っており,手法も確立されているので予定通り進行するものと予想される。 これらのデータの取得と平行して,メルトの上昇による地殻の流動変形,圧力差の誤差の定式化,山口県領家変成帯の精密な温度圧力構造の解明という3つの解析は現在進行中である。これらをまとめることによって,最終的な成果を学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
天草変成岩の年代測定のための試料作成が遅れ,測定の外注(株式会社京都フッショントラック)が3月になった。その結果,測定結果の入手と,この外注にかかる経費の精算が次年度に持ち越されたため。
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次年度使用額の使用計画 |
「理由」欄に記した年代測定の外注の精算に使用する予定である。
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