研究課題
本年度の前半部は,昨年度に引き続きレーザーアブレーション(LA)-マルチコクタ(MC)ICP質量分析法の開発を行った。琉球大学に設置されたLA-MC-ICP-MSを用いて,標準ガラス試料および標準岩石の粉末加圧ペレットを用いて,ホウ素を試料から分離せずに,レーザーアブレーションにより直接分析する技術開発を行った。分析に粉末加圧ペレットを用いた方法は,これまでに報告されておらず,固体試料を分析する上で,非常に簡便で画期的な方法が開発できた。標準ガラス物質を用いて分析条件の最適化を図り,数種の標準岩石試料(ペレット)の繰り返し分析を行い,精度や確度の評価を行った。結果として,ホウ素濃度が10ppm以上の火山岩などのケイ酸塩岩石については,十分な精度のデータを得ることに成功した。応用として,沖縄トラフに複数確認されている海底熱水中のホウ素濃度及びホウ素同位体比を調べた。沖縄トラフの海底熱水中のホウ素は中央海嶺の海底熱水中のものよりも濃度が著しく高く,同位体比は低かった。ホウ素濃度は,アンモニア濃度と正の相関があるので,熱水循環の過程で海底面上にある堆積物との相互作用で取り込まれたと考えられる。また,沖縄トラフの各地点での海底熱水系は,それぞれ異なるホウ素同位体比を示した。ホウ素同位体比とメタンの炭素同位体比が強い相関を示したことから,低温で生成された12Cに富んだメタンと高温で生成された13Cに富んだメタンへの推移と同期していると考えられる。これらのことから,海底熱水中のホウ素同位体比は海底熱水が堆積物と反応した温度環境を反映していると考えられる。本年度の後半部には,レーザー装置が故障してしまった。高額の修理見積もりのため年度内の修理を断念した。今後の溶液法での同位体測定のために,簡便な分離方法の検討に着手した。
3: やや遅れている
本年度の後半において,レーザーアブレーション装置が故障し,高額な修理見積もりのため,年度内の修理が困難となった。In situでの分析には不可欠な装置であり,天然試料への応用が難しくなった。
湿式でのホウ素同位体比の測定法の開発を進めるとともに,同種の装置を有する他の機関と共同研究で進めることも検討する。来年度が最終年度であることから,天然試料のデータを取得するところまでは,終了したい。
レーザー装置が故障したことにより,質量分析計を用いた分析が十分に行えず,これに関わる消耗品(Arガス)代金が低めとなった。
分析方法を検討し,前年分の分析も行う。成果発表などの旅費も計画的に執行するため,問題ないと思われる。
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