研究課題
基盤研究(C)
東南極、セール・ロンダーネ山地に分布するピングビナネ花崗岩、ベンゲン花崗岩、ビキングヘグダ花崗岩およびルンケリッゲン花崗岩の鏡下観察および各種化学分析を行うことで以下のことが明らかとなった。これまで単一の岩体として扱われていたピングビナネ花崗岩は、約4億6千万年前に大陸内の火成活動により異なる組成の起源物質から生成された3種のマグマにより形成された複合岩体である。ベンゲン花崗岩は、厚い大陸地殻底部の部分溶融によって生成されたマグマを起源として約4億9千万年前に形成された。また、ビキングヘグダ花崗岩には貫入関係や変形-変成作用との関係から、3期の貫入時期が認められ、火成活動場が火山弧から大陸内部に移行した可能性がある。さらに、ビキングヘグダ花崗岩はこれまでベンゲン花崗岩と同一の岩体であると考えられてきた(Shiraishi et al., 2008など)が、全く異なる組成および成因を有する。これらの花崗岩は、火山弧および大陸内の火成活動の産物であり、特に後者では地殻物質の混合によってマグマの組成が変化したと考えられてきた(Li et al.,2001など)。しかし、詳細な岩体内の組成変化の解析から上部地殻物質の混合の影響を取り除くことにより、初生的なマグマの組成を議論することが可能となった。さらに,東西ゴンドワナ大陸衝突後のマグマ生成過程の多様性と大陸衝突以前から衝突後にかけての火成活動の変遷の解析が可能であることも明らかとなった。前者は、Osanai et al.(2013)で提唱された、約6億~6億5千万年前に起こった小大陸同士の衝突による地殻の厚化を火成活動の側面から裏付けるものである。また、後者は、今年度から予定している変成岩中の花崗岩岩脈による火成活動の変遷の解析の有用性を示すものである。
2: おおむね順調に進展している
25年度に手がける予定だったピングビナネ花崗岩、ベンゲン花崗岩、ビキングヘグダ花崗岩およびルンケリッゲン花崗岩の鏡下観察および主成分ならびに微量元素分析、Sr・Nd同位体比分析はおおむね実施することができた。しかし、構成鉱物の化学分析はすべての岩体について行うことができなかった。しかしながら、26年度に手がける予定の変成岩中の花崗岩岩脈の各種分析については、一部の試料において前倒しして進めている。また、花崗岩岩脈の貫入および変成・変形作用の時期の解析に重要な,変成岩の様々な分析による変形-変成作用の解析はかなり進んでいる。したがって、全体としてはおおむね順調に進んでいると言える。
ストック状花崗岩体については成因と活動時期が大まかにではあるが明らかとなってきた。さらに詳細な解明のためには、Nd同位体比組成も加えたマルチアイソトープによる起源物質ならびにマグマ分化過程の解析が必要である。Nd同位体比については、必要と思われる試料の測定はほぼ終了しているが、同位体比初生値の計算、母岩の同化およびマグマ混合プロセスの解析には、SmとNdの定量が必要となる。そのため、今年度以降はNd同位体比を測定した試料についてのSm、Ndを含めた希土類元素(REE)の定量も進める。これにより、Sr・Nd同位体比組成に加えて、REE組成を用いた花崗岩マグマの生成・分化過程の解析が可能となる。加えて、変成岩中に貫入している花崗岩岩脈についても、25年度に行ったストック状花崗岩体と同様な解析を進める。花崗岩岩脈には、変形作用を被り、褶曲したり、マイロナイト化しているものも多く存在する。そのような変形作用を被っていなくても、周囲の変成岩の面構造に調和的な面構造を有するものも存在する。このため、野外における産状と鏡下観察による組織改変の解析によって、変成岩の解析から得られている変形-変成作用をタイムマーカーとした花崗岩岩脈の貫入時期のグループ分けを行うことが可能である。さらに、それらの花崗岩体と花崗岩岩脈の貫入時期をより正確に把握するため、ジルコンのSHIRIMP年代測定作業を順次進める。また、花崗岩の構成鉱物のEPMA分析については、分析装置のバージョンアップ作業がまだ完了しておらず、研究担当者の外田が第56次南極地域観測隊員として26年度後半に南極に赴くため、十分な分析を行うことは難しいと思われるため、大部分を27年度に行う。
島根大学における同位体抽出と測定は、卒論・修論・博論に関わる実験,他研究課題における実験との様々な調整を行いながら進めている。本課題に関連した実験は、これらの実験と同じルーチン内で実験室ならびに質量分析計を使用している。このため、薬品や消耗品は、他予算ならびに本経費で購入したものを順次使用していくことになる。25年度は、他予算から順次使用したため、本研究課題の経費使用にはいたらなかった。また、福岡大学における物品費の消費では、実験の進行にあわせて必要な物品購入を心がけたため、最終的には若干の残金が生じた。旅費については、年度後半に予定していたEPMA分析が、関連実験室の工事ならびに分析装置のバージョンアップのため、長期にわたり行うことができず、今年度以降に延期にしたため、全額使用とはならなかった。島根大学における同位体抽出および測定に関わる薬品や消耗品、実験関連機器の消耗品等は、今後も必要であるため、それらの使用・消耗状況に応じて順次経費を使用していく。また、マグマの性質(特に起源物質)やマグマの貫入・固結過程の解析に必要な岩石の帯磁率測定を行う帯磁率計が故障により使用不能となったため、新たな帯磁率計の購入が必要となった。このため、福岡大学において生じた残金については、帯磁率計の購入費用に充てる。
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