研究課題
東南極、セール・ロンダーネ山地に分布するストック状花崗岩体であるピングビナネ花崗岩、ベンゲン花崗岩、ビキングヘグダ花崗岩およびルンケリッゲン花崗岩のSr・Nd同位体比測定と希土類元素(REE)分析を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。ピングビナネ花崗岩、ベンゲン花崗岩およびビキングヘグダ花崗岩については、産状、岩相、主成分ならびに微量元素組成によって区分した岩相ごとに異なるSr・Nd同位体比初生値とREEパターンを持つ。このことは、それぞれが異なる同位体比組成を有する起源物質からもたらされたことを示唆する。また、ルンケリッゲン花崗岩は、ベンゲン花崗岩と同様に高K、高Sr含有量と高Sr/Y比で特徴付けられることから、大陸内の同様な火成活動によって形成されたと考えられる。さらに、この花崗岩体は3岩相に区分されるが、組成変化トレンドが異なり、それぞれ別のマグマを起源としている可能性がある。これらのことから、大陸衝突後の火成活動におけるマグマ起源の多様性が示唆される。また、セール・ロンダーネ山地西部の南側に広く分布する変トーナル岩とその北側に広く分布する変成岩中に貫入している花崗岩岩脈を、貫入母岩との関係から、主要な変成作用以前に貫入したグループとそれ以降に貫入したグループに区分し、岩相と全岩化学組成を検討した。その結果、変トーナル岩中に貫入している花崗岩岩脈は、低Kという化学組成の類似性から,変トーナル岩と同様に未成熟島弧での火成活動の産物であることがわかった。さらに、変成岩中に貫入した花崗岩岩脈の化学組成は、主要な変成作用の前後で大きく変化せず、ストック状花崗岩体の化学組成と類似することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
26年度に手がける予定だったストック状花崗岩体(ピングビナネ花崗岩、ベンゲン花崗岩、ビキングヘグダ花崗岩およびルンケリッゲン花崗岩)の希土類元素の定量、Sr・Nd同位体比測定はおおむね実施することができた。花崗岩岩脈については、貫入母岩である変トーナル岩および変成岩との関係を元に大きく3つのグループに区分し、それらの鏡下観察、主成分ならびに微量元素分析、Sr・Nd同位体比測定を進めることができた。さらに、これらの希土類元素の定量も前倒しして行うことができた。加えて、これら花崗岩体の貫入母岩との反応やマグマの起源物質の検討に欠かせない各種変成岩の化学分析も進んでいる.また、花崗岩岩脈の貫入および変成・変形作用の時期の解析に重要な,変成岩の様々な分析による変形-変成作用の解析も進んでいる。したがって、全体としてはおおむね順調に進んでいると言える。
花崗岩岩脈の主成分ならびに微量元素組成が、主要な変成作用前後で大きく変化せず、ストック状花崗岩体と類似することが明らかとなった。これは、セール・ロンダーネ山地西部域が大陸衝突の前後で地質学的位置(テクトニックセッティング)を変化させていない可能性を示唆する。これをさらに詳細に検討するため、これらの試料のSr・Nd同位体比測定を進め,マルチアイソトープならびにREE組成による起源物質ならびにマグマ分化過程の解析を行う。さらに主要な変成作用(すなわち、大陸衝突イベント)以降に貫入した花崗岩岩脈については、偏在するストック状花崗岩体よりも広範囲に点在していることから、ストック状花崗岩体との詳細な空間的、化学的比較も行う。これにより、大陸衝突前後のマグマプロセスの変化過程をストック状花崗岩体と花崗岩岩脈を使って広範囲に解析する。さらに、それらの花崗岩体と花崗岩岩脈の貫入時期をより正確に把握するため、ジルコンのSHIRIMP年代測定作業を順次進める。また、分析装置のバージョンアップのため実施できなかった花崗岩の構成鉱物のEPMA分析も行う。
島根大学における同位体抽出と測定は、卒論・修論・博論に関わる実験,他研究課題における実験との様々な調整を行いながら進めている。本課題に関連した実験は、これらの実験と同じルーチン内で実験室ならびに質量分析計を使用している。このため、薬品や消耗品については、他予算ならびに本経費で購入したものを順次使用していくことになる。26年度は、他予算から順次使用したため、本研究課題の経費の全額使用にはいたらなかった。
島根大学における同位体抽出および測定に関わる薬品や消耗品、実験関連機器の消耗品等は、今後も必要であるため、それらの使用・消耗状況に応じて順次経費を使用していく。
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