研究課題/領域番号 |
25400524
|
研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
中村 仁美 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 研究員 (60572659)
|
研究分担者 |
中井 俊一 東京大学, 地震研究所, 教授 (50188869)
岩森 光 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 分野長 (80221795)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 温泉水 / スラブ / 流体 / 沈み込み / 構造線 / 塩水 / 有馬型 / スラブ起源流体 |
研究実績の概要 |
本年度(平成26年度)は,論文発表と試料採取を行い,採取した試料の化学分析を開始した.論文発表は,初年度(平成25年度)に行った本研究の下準備としての,有馬温泉水を用いた試験的実験の成果を国際誌に発表した.内容は,有馬温泉水の重元素同位体比測定に成功し,その起源を明らかにしたというもので,同時に,温泉水に含まれているスラブ起源流体のREEsのパターンも示した.更に,関連する内容を国内・国際学会において公表し,有益な議論やアドバイスを得ることができた.これらにより,本研究の基盤ができたと考えている. また,中央構造線~糸魚川静岡構造線沿いの温泉水の調査を行った.特に,非火山域がある3県については,試料の採取を集中的に行った.採取した試料は,既に断層・地質や主溶存元素の情報に基づき選定していた泉源に加え,スラブ起源流体の周辺への広がりを検討するため,空間及び多様性を考慮しながら泉源数を増やし,試料を採取した.採水の際には,試料の一次データとして,pH・温度・深度・電気伝導率・塩濃度を測定した.採取した試料は,沈殿物生成の有無を経過観察後,化学分析のために順次処理を行う段階に入っている. 有馬温泉水を用いた,試験的実験の際に行った化学的前処理(鉄共沈法を行い,その後,酸処理と段階的加熱を行うことで元素濃縮させる)では,多量の副生成物を生じたため,かなりの時間を要した.このため,前処理方法を改良し,温泉水の多様な性質に合わせて試行錯誤を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度に行う予定であった試料採取は,平成26年度に無事に終え,平成27年度は化学分析に集中する予定である. しかし,初年度に行った,有馬温泉水を用いた試験的実験の結果,同位体比測定のためには,交付申請書に記載した化学的前処理(鉄共沈法を行い,その後,酸処理と段階的加熱を行うことで元素濃縮させる)を行わずに,採水した試料を元素吸着フィルタに通過させる方が良いことが分かった.元素吸着フィルタだけで必要な量を回収することができ,ランタノイドレジンを用いて元素分離を行い,同位体比測定に持ち込むことができることが明らかとなった.また,低含有量元素の定量には,高感度のICP-MS(iCAP Q)を用いることで,当初想定していた前処理が不要となった. そこで,平成26年度は,これらの成果をまとめることを最優先とし,国内・国際学会で発表し,国際誌にも公表した.また,これらの分析過程において,重元素同位体比だけではなく,希土類元素(REEs)の濃度・パターンが成因指標として有効であることが分かった.このため,平成27年度は、重元素同位体比測定に加え,低含有量元素(REEs)の定量のための化学分析を行い,論文や学会等で発表する予定である.依って,研究内容自体に支障はなく,概ね順調と捉えている.
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降は,本年度までに確立した手法をより広域、特に中央構造線―糸魚川静岡構造線沿いの深部由来の可能性がある流体に適用し、分析(低含有量元素の定量)→解析・論文化の段取りで行う.既に一部を開始しており,それらについては早い段階で公表する見込みである.
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験の成果の公表を優先したことや,実験の一部(重元素同位体比測定方法)が当初の計画よりも簡略化できたために,次年度使用額が生じた. 平成26年度に学会や国際誌に発表した,有馬温泉水を用いた実験結果は,多様性の問題は残るが,本研究対象地域の温泉水の元素濃縮(重元素同位体比測定)が簡略化できることを示唆する,と同時に,低含有量元素であるREEsのパターンから,スラブ起源流体をもっとも多く含有している泉源を見つけること,および上昇過程についての情報をこれまでにない精度で読み取れることを明らかにした. そこで,まず,対象地域のREEsパターンを迅速に測定し,その解析を行うことにより,スラブ起源流体を多く保持している泉源とその上昇過程を推定する.その上で,スラブ起源流体を多く保持している泉源についてのみ,元素吸着フィルタに通液させ,同位体測定を行うことで,その起源について明らかにする.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度中に論文公表・学会発表を行う予定であり,それに係る経費と,化学分析に係る消耗品の購入に充てる.
|