研究課題/領域番号 |
25400536
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
杉本 尚哉 秋田県立大学, システム科学技術学部, 准教授 (20291784)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 低真空アーク / 陰極点 / 微小高速輝点 / 金属表面酸化膜除去 |
研究概要 |
低真空中のアーク放電で発生する陰極点の特性を利用する、金属表面酸化膜層の除去法において、全面が酸化膜層で覆われた一枚の金属平板を試験片とし、一方の面の対向に陽極を置いて平板の片側の面を洗浄する従来の電極配置のまま、裏側の面も真空中に露出させて一度にその両面を処理する実験で見られる、陰極点の特異な振舞いについて実験を進めてきた。陽極に向いている面の酸化膜がすべて除去され、すべての陰極点が陽極とは反対の面上に移動した後に、陽極に向いている面上には微小で動きの速い「微小高速輝点」が発生するが、高速度カメラを用いてこの微小高速輝点の特性を明らかにすることが今年度の目標である。 微小高速輝点は試験片の広範囲を高速度で移動するため、微小高速輝点自体を高速度カメラで捉えて移動速度を測定することはやはり困難であった。そこで、微小高速輝点が出現する場合と同様に、酸化膜を除去した表面状態の試験片に対してアーク放電を発生させて陰極点の様子を撮影し、その移動速度を測定した。測定の結果、その移動速度は数10m/s程であり、通常の陰極点の移動速度の10倍から100倍程度で変動している。実際の微小高速輝点についても、同様の移動速度ではないかと考えているが、今回の測定により初めて微小陰極点の移動速度について定量的に見積もることができた。一方、微小高速輝点の大きさについては、撮影した画像からは約1mm程度という結果が得られたが、これはこれまでに得ている通常の陰極点サイズとほぼ同じであり、目視での様子から考えられるサイズよりも大きいため、今後さらに詳しく測定する必要がある。 今回、さらに微小高速輝点出現時の放電電圧および放電電流の高速度変動について調べたところ、通常の陰極点出現時にはこれまで通りの値が測定されるのに対し、微小高速輝点出現時は異常値を示すという特異な現象が起きることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題での研究目的は、低真空アーク放電による金属平板表面の酸化膜除去時に見られる、従来の陰極点とは挙動や特性が異なる微小高速輝点の特性を明らかにして、通常の陰極点や陽極点との関係を調べ、陰極点挙動の理解に結び付けることである。これまでの高速度カメラによる観測で、少なくとも通常の陰極点との移動速度の違いのオーダーは確定できたと考えている。 しかし、微小高速輝点のサイズについては、まだ正確な結果が得られていない。さらに、放電電流や放電電圧の高速度測定では、通常の陰極点出現時には正常値が測定されるのに、微小高速輝点が現れるようになると異常値が測定されるといった、新たな問題が出てきた。このように、微小高速輝点の大きさとそこに流れる電流値の測定に問題があるため、通常の陰極点との電流密度の比較ができていない。 一方、微小高速輝点の有無により、陽極周辺および電極間にかなりはっきりと発光状態に違いが見られることがわかっている。次年度は、この発光状態を決定しているプラズマについて、詳細に調べる予定である。 低真空アークでは、陰極材が放電空間中に放出されプラズマになっているものと考えられるため、陰極材の放出と、放出された陰極材のプラズマ化に、陰極点や微小高速輝点の電流密度が強く関係していると言える。したがって、現段階で電流密度を見積もる2つのパラメータの測定に問題があることから考えると、研究目的の達成度についてはやや遅れていると言わざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
通常の陰極点により、金属平板の陽極と対向している面上の酸化膜層がすべて除去されたのち、陰極点は金属平板の周辺部を通って反対側の面へと移動し、金属平板の中心部へ移動しながら、酸化膜層を除去していく。低真空アーク放電では、陰極点によって陰極表面から陰極材の蒸気や液滴が放電空間中に放出され、それらはアーク電流によりプラズマ化されると考えられる。陰極点が陽極とは反対側に移動すると、陽極と陰極の間には陰極材の蒸気や液滴が供給されなくなりプラズマが維持されなくなると予想される。 今後は、まずこの放電空間にプローブを挿入することが可能か確かめ、測定への利用が可能であれば、陰極点の存在場所の変化によりプラズマパラメーターがどのように変化するのかを調べる。また、微小高速輝点が見られる場合と見られない場合について、目視ではプラズマの発光状態が異なっており、やはりプローブによるプラズマパラメーターの変動を詳細に測定し、陰極点や微小高速輝点の挙動との関連を調べる。 一方、通常の陰極点が見られるときには正常な測定ができるのに対し、微小高速輝点が発生している場合には放電電流・放電電圧の高速度測定が異常値を示し時間変動が測定できない問題について、プローブによる測定結果と合わせ、放電空間中に振幅の大きな電流変動が無いかなど、考えられる原因を調べる。さらに、放電空間中にアンテナを挿入して電磁的変動を測定し、放電電流・電圧変動との間の相関を調べることも検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、高速度カメラ購入費とその他実験用消耗品購入費、学会参加費に支出し、さらに試験片購入への支出を予定していたが、当該助成金では不足のため購入できないことが判明した。幸い残りの試験片で実験は継続できたため、翌年度請求の助成金と合わせて新たに試験片を購入することにしたため、次年度使用額が生じることとなった。 次年度使用額発生の理由に既述の通り、翌年度請求分の助成金と合わせ、実験に使用する試験片の購入費に充てる予定である。
|