今年度は、トラップに蓄積された1S0準安定状態Ar2+の放射寿命を測定することを目指した。Ar2+の1S0準安定状態は519 nmおよび311 nmの光子を放出してそれぞれ1D2および3P1状態へ遷移する。実験は、311 nmの放出光子数の時間依存を計測することで寿命を求めることにした。 すでに昨年度、Kr2+の1S0準安定状態の放射寿命測定には成功している。しかし、Ar2+は以下の理由でKr2+に比べて単位時間あたりの検出光子数が少ないために、測定が難しくなると予想された。1) Kr2+に比べて1S0状態の寿命が一桁長い、2) Ar2+の1S0→3P1の分岐比は56%であり、Kr2+の92%に比べて小さい。3) 検出波長が変わるために光学系の検出効率の低下が生じる。 そこで、光学系を改良することで光子の検出効率を高めることを試みた。具体的には、1)光学検出系(ビューポート、集光レンズ、バンドパスフィルタ、光電子増倍管)の対面に反射率の高いアルミ製の球面ミラーを設置し、光学検出系と反対方向に放出された光を検出できるようにした。2)311 nmの波長に対しても透過率の高いビューポートに交換した。これらにより、約5倍の検出効率の向上が図れた。 統計を向上させるために測定を3回行った。それらの結果はすべて誤差の範囲で一致した。3回の測定の重み付き平均より得られたAr2+の1S0準安定状態の放射寿命は165 ± 21 msであった。結果には13%の誤差があり、目標としていた5%以内の誤差より2倍大きい。これは、光学系の改良を行ってもまだ光子の検出信号数が少ないためである。この改善のために、光子検出系を光源にさらに近づけることや光ファイバーの導入など、観測立体角を拡大するためのさらなる手段の検討を行った。 これまでの本研究の成果を国内および国際学会で発表した。
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