研究実績の概要 |
宇宙生成の動的発展プロセスを探るうえで重要な物質―反物質プラズマの研究はその寿命が短いため実験室では無理とされてきたが、東北大学のプラズマ研究グループがイオン対プラズマの安定な生成に成功し、質量の違いはあるものの物質―反物質プラズマの相似性ゆえに、実験室での研究の道が開かれた。同じ東北大学のグループにより計測された波動の特異な分散特性は、この10年余りの理論による解明の試みをことごとく退けてきた。これまでの理論研究は流体記述によるものであり、実験結果が示唆していた粒子運動論的特性である高次サイクロトロン共鳴を無視したものであった。2014年度にはイオンプラズマ波、イオンサイクロトロン波とその高調波、イオン音波の各分散特性を求め、実験とよく合う結果を示し、特に実験で特徴的であった3つの後進波のすべてを同定した("Electrostatic Ion Cyclotron and Ion Plasma Waves in a Symmetric Pair-Ion Plasma Cylinder"(PRL 112, 105001(2014))。 ところで、プラズマ物理における統計力学的運動論と流体力学とは相補的であり、波動の分散特性は基底波に関する限り同じ結果を導くはずである。粒子の磁化が本質的であることを示した2014年の成果から、磁気粘性項を持つ流体力学方程式を解くことで、イオン対プラズマの基本モードはすべて説明できることが期待される。基礎方程式系の線形分散方程式はHankel-Fourier変換により厳密に解けることを示し、実験データを再現した。("Gyro-viscosity and linear dispersion relations in pair-ion magnetized plasmas"(Phys. Plasmas 22, 112102 (2015))
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