水は私たちに最も身近な物質のひとつであり,古くからその物理化学的性質に対して分光学的,計算化学的知見が得られてきた.水はバルクでは四面体水素結合構造をとることはよく知られているが,気液界面において水素結合が切断される際どのような分子構造をとっているのかはまだ議論の余地がある.殊に,界面選択的振動分光実験により水界面には氷構造が存在するといわれてきたが,その真偽についても未だ議論が絶えない. 本研究は,分子動力学シミュレーションにより界面振動分光計算を行うことにより,水や氷の界面での分子配向構造,水素結合構造を明らかにすることを目的としてなされた. 昨年度までは,氷表面の構造に関してHOD氷についての界面振動スペクトル計算を行い,氷表面ではかなりの振動非局在化が生じていることを見出した.この成果は,古くからあまりよく理解されてこなかった氷ピークの発生メカニズムを初めて説明した成果となった.また,水表面構造に関してはNaOH水溶液の計算を行うことにより水酸化物イオンが比較的界面で不安定であることを見出した.これは,「水の表面は酸性か塩基性か?」との問いに一定の答えを与えた成果となった. 最終年度は,さらに,水/メタノール混合溶液表面での分子構造の問題に取り組んだ.実験では,水/メタノールの混合比を変化させてもメタノールの配向構造は大きく変化しないと報告されていたが,我々のシミュレーションにより実際はメタノールの配向は濃度と共に変化することが明らかとなった.また,振動分光実験で配向構造が変化しないと結論付けられる原因も明らかにした.
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