研究課題/領域番号 |
25410004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 泰樹 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (40106159)
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研究分担者 |
中島 正和 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20361511)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロ波分光 / 分子錯体 / 純回転スペクトル / 分子間相互作用 / クリーギー中間体 / 大気化学 / 原子2原子系 / 大振幅運動 |
研究実績の概要 |
2013年度、2014年度と不飽和炭化水素のオゾン酸化の反応中間体として最近特に注目を集めているクリーギー中間体、特にCH2OOに注目し、この分子を含む分子錯体の検出、キャラクタリゼーションを試みてきた。これまでにCH2OOとAr、CO、N2、H2Oとの錯体を検出した。クリーギー中間体の関与する反応は、大気化学において炭化水素の酸化過程として大きな注目を集めているので、大気成分であるN2やH2Oとの錯体の検出は特に意義が大きい。これらの錯体のうち、Ar、N2、COを含むものは、CH2OOの作る平面の面外にそれぞれの分子が配位しており、その平面の上下の間の往復に対応する分裂が観測された。一方、水分子との錯体は、平面構造を取り、2重の水素結合により結びついていることが明らかになった。このうちCH2OOの末端の酸素と水分子の水素原子とがかなり強い水素結合をしている。他の分子錯体に比べ、水分子との錯体のスペクトルは、分子間力が最も強い錯体であるにもかかわらず、かなり弱いことが明らかになった。これは、水分子との錯体が比較的速やかに後続反応を起こしているためと考えられ、同じ生成系の中でその際の生成物と考えられるCH2OHOOHという分子を検出した。この分子も大気化学で重要と考えられていたものであるが、その回転スペクトルを始めて検出したものである。 クリーギー中間体関連の錯体の他に不安定2原子分子種であるCSと希ガスとの錯体のスペクトルも観測し、これらの系については、精密な3次元ポテンシャルを決定した。このうちArとの錯体については論文として2014年度中に発表することができた。Ne、Krとの錯体についても数多くの遷移を観測し、ポテンシャルを決定することができた。この原子2原子分子系は、十分なデータがあれば3次元の完全なポテンシャルを決定することができる系である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
特に最近大きな注目を集めている分子種であるクリーギー中間体の一つであるCH2OOを含む数多くの分子錯体を検出することができ、それらの構造や運動ダイナミクスを明らかにすることができた。特に水との錯体と、その後続反応に関わる分子種を検出できたことは、当初の予定を超える成果であり、大気化学の理解に大きなインパクトを与え得る結果であると評価している。 また、原子ー二原子分子系のダイナミクスの解析から、3次元ポテンシャルを決定する研究は、世界的に他をリードするものであり、その適用範囲を広げることができたのは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、2015年度が最終年度であり、これまでの成果をとりまとめて論文として発表するとともに、内外の学会等でその成果を披露する。原子ー二原子分子系はこれまでにも多くの実績を上げてきた系であるが、さらに適用範囲を広げ多くの系についての精密なデータを追加していくことは大きな意味があると考える。 もう一つのテーマであるクリーギー中間体については、その生成反応、後続反応ともに大きな注目を集めておりこここ2,3年様々な研究が報告されている。その中で、クリーギー中間体を含む錯体や、その前駆体の錯体などは反応過程に大きな影響を与える可能性があり、さらに研究を推進する意味があろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験実施に当たって消耗品、特に試料気体などの使用量が予定より少なく、また装置の稼働状況も良好で、保守費用が余り必要とされなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
データのとりまとめ、学会発表等に使用する。
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