不安定分子種CSとNe、Ar、Krとの錯体のスペクトルを観測し、これを自由回転子のモデルで解析した。解析には高精度の分子軌道計算を使用し、計算によって得た三原子の間の三次元ポテンシャルを初期条件として、そのポテンシャル上での運動ダイナミクスを正確に計算することによって、観測したスペクトルを、CSの振動励起状態、硫黄の同位体種、Ne、Krの同位体種のそれらも含めすべてを統一的に説明することができた。 また、大気化学で重要な反応中間体を含む分子錯体も観測し、その詳細を明らかにした。その一つはHOCOと水との錯体である。HOCOの水素原子の先端に水分子が配向している構造であることが確認され、水の二つの水素原子の交換に伴うスペクトルの分裂も観測された。この錯体は大気中でのHOCOの反応に水分子が与える影響を評価する上で重要なものであり、その検出は大きな意味を持つと考えられる。 さらに最近特に注目を集めているいわゆるクリーギー中間体を含む分子錯体を観測した。その一つは、最も簡単なクリーギー中間体であるCH2OOと水分子との錯体である。この錯体のスペクトルを観測し、その構造が二つの水素結合を持つ環状の平面系であることを確認した。さらにこのCH2OOは水分子と反応し、ヒドロキシメチル過酸化水素(HMHP)を生成すると考えられていたが、水錯体が観測された同じ条件の下でそのスペクトルを観測することに成功し、実際にこの反応が進行していることを確認することができた。 このCH2OOについては、Ar、CO、N2との錯体も観測した。水錯体が強い水素結合により平面の環状構造をとっているのに対し、これらの錯体は比較的弱いvan der Waals結合をしており、非平面構造をとっていることが確認された。また、これらの錯体についてはCH2OOの面が反転することによるスペクトルの分裂が観測された。
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