研究実績の概要 |
平成27年度までに、分子錯体の究極の姿としてホスト単結晶中にトラップされたゲストラジカル分子を作製して、X-線結晶回折像と電子スピン共鳴(ESR)スペクトルの同時測定を行った。実際には、配位子 2, 4, 6-tri(4-pyridyl)-1, 3, 5-triazine (TPT)分子 に金属イオン・亜鉛イオンを加えて、空孔が配列した金属錯体ホスト単結晶を作製し、これに2-phenyl-4, 4, 5, 5-tetramethyl imidazoline-3-oxide-1-oxyl (PTIO) をゲストとして吸収させた、吸蔵単結晶の合成に成功した。その単結晶について単結晶X-線回折測定に加えてESR測定を実行して、分子が配向したX-線回折像と単結晶ESRスペクトルを得た。現在、得られたX-線回折像と単結晶ESRスペクトルの相関関係を解析し、PTIOラジカル分子の正確な電子状態を明らかにした論文を執筆中である。 また、京都大学化学研究所・村田研究室との共同研究として進めている、He@C60とH2@C60分子に関する測定に加えて、新たにO2@openC60分子が研究対象となった。この内包フラーレンは、基底三重項状態の酸素分子を安定にフラーレンに内包する分子であり、気体状態でしか測定できない基底三重項状態を、パウダー状態や溶液状態、または凍結溶液状態で極低温測定を可能にする。極低温測定を行った結果、パウダー状態と凍結溶液状態で酸素の基底三重項状態が保存されている明瞭なESRスペクトルの測定に成功した。現在、1.5K~40Kにわたる極低温測定により、酸素の基底三重項状態に対するフラーレン分子の相互作用の測定・解析を進めている。
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