研究課題/領域番号 |
25410018
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
山崎 勝義 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90210385)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 反応速度定数 / 振動緩和 / 振動エネルギー移動 / Profile積分法 / 信号応答理論 |
研究実績の概要 |
本年度は前年度の観測結果の検証と新規な衝突分子による振動緩和過程の観測を目的として,1. S(1D)+OCS反応によるS2生成機構の解明,2. S2(a1Δg)の高振動準位のHeによる緩和速度定数の決定,3. 振動励起OH(X2Π)のArおよびN2による緩和速度定数の決定を行った。 1. S(1D)+OCS→S2+CO反応はS2の2つの電子状態X3Σg-およびa1Δgを生成すると考えられているが,電子スピン保存則に従えばa1Δgしか生成しない。本研究では2つの電子状態X3Σg-およびa1Δgの生成速度のOCS濃度依存性を測定し,両電子状態の生成速度定数がほぼ等しいこと[(3.2±0.3)×10~-10 cm3 molecule-1 s-1]から両電子状態の同時生成を実証し,その成果を米国化学会発行のJ. Phys. Chem. Aに投稿して掲載された。 2. 初年度に観測したS2(a1Δg)の振動準位v=0~2より高準位のv=3~9について測定を行い,緩和速度定数が振動量子数にほぼ比例的に増加するLandau-Tellerモデルに従うことを明らかにした。この結果はS2(a1Δg)の振動準位エネルギーの非調和性が小さいことを反映している。 3. 過去に報告例がないOH(X2Π)のN2による緩和速度定数の決定する試みを開始した。N2バッファでのシグナル強度が貴ガスバッファでの観測に比べて1/200に低下する問題を克服するために,散乱光除去および検出系の高感度化を実現しN2系でのシグナル観測に成功した。また,初年度に行った振動励起OH(X2Π, v=1~4)のArによる緩和速度定数測定のうち,低振動準位v=1, 2について拡散消失の速度評価の精度が低かったことを見出し,Ar圧依存性のデータを蓄積した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. S2の振動緩和については,計画に従って2つの電子状態X3Σg-およびa1Δgの振動緩和速度定数を測定する測定を進めており,本年度はa1Δg状態の振動準位v=3~9の緩和速度を決定した。S(1D)+OCS反応で生成するa1Δgの最高検出可能準位がv=10であるから,a1Δg状態についてはほぼ全準位について測定を達成したといえる。また,本研究で利用しているS(1D)+OCS反応が同時に2つの電子状態X3Σg-, a1Δgを生成する機構詳細を解明するためにS原子の2光子励起レーザ誘起蛍光検出を試み,約10~8 atoms/cm3の数密度のS(1D)原子検出に成功した。 2. OHのArによる振動緩和に関しては初年度中にデータ取得および解析を終え論文にまとめる予定であったが,低振動準位(v=1, 2)の濃度経時変化への拡散消失の影響を過小評価していることが判明し,Ar圧力依存性(100~300 Torr)のデータを再取得する必要が生じた。その際,従来の流量コントローラでは十分な精度が得られないことが判明し,流量コントローラ4基を本研究経費により高精度なものと交換し,流量制御精度を格段に向上させた。本研究で構築した解析プログラムは本研究の反応解析において十分な能力を発揮しており,多段逐次反応過程における高精度の反応速度決定に有益な手段としてして確立しつつある。 S(1D)+OSC反応の総括反応速度定数の決定については投稿論文が掲載され,その他の成果についても投稿論文を執筆中であり,計画は全体として達成しつつあるが,本年度,S2の振動緩和について観測準位数を増加させることはできたものの,論文投稿・発表が未完了である点を踏まえて「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 振動励起OH(v=1~4)のN2による緩和過程の速度定数決定を行う。きわめて遅い過程であるために測定が困難で上限値しか報告例がないが,本年度,検出感度の向上を実現したので,各振動準位濃度の経時変化のN2圧力依存性を測定し,本研究で確立した反応速度解析法を応用して初の速度定数決定を実現する。 2. 初年度に見出した振動励起S2のSF6による高効率緩和過程の機構解明を進める。S2の電子状態X3Σg-についてはv=20まで,a1Δgについてはv=10までの幅広い振動準位についてSF6およびCF4による緩和速度定数を測定し,S2と同族原子からなるO2およびSOとの比較検討を行い,無極性分子衝突による振動エネルギー移動過程の機構解明を目指す。 3. S原子検出については,他分子との衝突による化学反応と電子消光(1D → 3P)の分岐比を明らかにするため,電子基底状態S(3P)の検出を試みる。S(3P)の2光子励起波長および観測波長はすでに調査済であり,使用するレーザ用色素および検出用光学フィルタも入手済である。本測定を通じて,解析解を用いない反応速度解析法が反応過程と消光過程の分岐比決定においても有効であることを実証する。 4. 観測対象を3原子分子に拡げ,分子衝突にもとづく分子間のエネルギー移動過程だけではなく,分子内振動モード間のエネルギー移動速度定数も本研究で構築する速度式の解析解を用いない簡便かつ高精度な解析法を利用して決定する。なお,NH2(X2B1)についてはすでに予備実験を開始し,変換振動モードのCF4による高効率な緩和を観測しており,3原子分子の化学反応速度(具体的には化学反応 NH2+NO → OH+N2+H)の振動エネルギー依存性を明らかにする予定である。
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