研究実績の概要 |
最終年度は,前年度までに構築した化学反応速度式の解析解を用いない反応速度解析プログラムの適用範囲を拡張することを目的として,1. 電子励起原子の反応と消光の分岐比測定,2. 振動励起3原子分子の反応・緩和過程の速度解析,3. 振動励起2原子分子系の緩和過程に関するデータ蓄積を行った。 1. 前年度までは電子励起硫黄原子S(1D)とOCSの化学反応を生成物S2により観測したが,反応を直接追跡するために,S(1D)の2光子励起レーザ誘起蛍光法(2PLIF)による検出を試み成功した。また,S(1D)のOCSによる消光で生成する基底電子状態S(3P)の2PLIF検出にも成功し,S(1D)+OCS反応の2経路であるS2+COとS(3P)+OCSの分岐比を決定した。本成果は平成28年開催の国際学会(日本)で発表することが確定している。 2. 交付申請書の「平成27年度の研究実施計画」で述べたように,観測対象を3原子分子に拡張し,振動励起NH2がCF4により高効率で緩和されることを見出し,緩和速度定数の測定に成功した。NH2+NO反応系にCF4を添加することにより,同反応によりN2+H+OHが生成する経路がNH2の振動励起により加速されることを実験的に明らかにし,その成果をChem. Phys. Lett.誌に投稿し掲載された。 3. 2原子分子系については,初年度に見出した振動励起S2(a1Δg)のSF6による緩和速度定数の測定を継続して観測振動準位数を増し,学会発表を行うに十分なデータが蓄積したので,平成28年に開催される国際学会(2件; 日本,イギリス)で発表する。また,S2(a1Δg)のHeによる振動緩和について,広範囲の振動準位(v=1~9)の緩和速度定数を決定した。衝突1回あたりの緩和確率の振動準位エネルギー間隔依存性が,他の振動励起分子(O2, NO, CO)のHeによる緩和過程と一本の相関式で統一的に表現できることを見出した。これは振動緩和研究における顕著な成果であり,論文はすでに投稿済である。
|