研究課題/領域番号 |
25410019
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
吉田 健 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 講師 (80549171)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超臨界水 / 分子動力学計算 / 並進拡散 / 高温NMR法 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続いて、MDシミュレーションを用い、フレキシブルモデルであるSPC/Fwモデルを用いて常温から超臨界に至る水の拡散係数と回転相関時間を計算した。前年度の計算結果を踏まえて、分子の内部自由度の有無の効果をより厳密に議論するために、次の手順での計算機実験を行った。まず、フレキシブルモデルによる計算から、各々の熱力学条件におけるフレキシブルモデルから得られる平衡構造の平均値を算出した。そのうえで、各々の熱力学条件において、フレキシブルモデルによる計算結果の分子平均構造に固定したリジッドモデルの計算を行い、フレキシブルモデルとリジッドモデルの比較から、分子の内部自由度が並進拡散に与える影響を考察した。その結果、水素結合が顕著に存在する常温常圧付近では、並進拡散係数と回転相関時間の両方に対して、10%-20%といった大きな差が見られた一方で、温度上昇・密度低下とともに、フレキシブルモデルとリジッドモデルにおける差異は小さくなった。これは、分子の内部自由度と分子運動の関係が、動的な水素結合相互作用を通じて相関していることを示している。 さらに、水の水素結合の効果と比較参照し、かつ溶媒和と脱溶媒和の効果を考察するために、本年度はLennard-Jones流体を対象に、並進の速度相関時間と溶媒和殻の構造の時間変化との相関関係を考察した。速度時間相関関数の減衰挙動が、溶媒和数の時間遷移で説明できることを明らかにした。また、溶媒和・脱溶媒和の効果を、溶媒和数の時間遷移に対して系統的に評価し、溶媒和するときの粒子間の引力による溶質粒子の加速効果や、脱溶媒和が起こる際には溶媒和が起こるときに比べると溶質分子の速度に対する溶媒効果が小さいことなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子内の内部自由度の影響としては、内部自由度の効果だけに限定する比較方法により厳密に評価する検討を済ませ、実際に内部自由度が分子ダイナミクスに有意な効果を持つことを明らかにしている。また、温度・密度の関数として系統的に評価を行い、内部自由度の効果が大きいのは水素結合構造が顕著な常温常圧付近である、ということも見出している。さらに解析を進めることにより、溶媒和の構造の評価を静的なものから動的なものに拡張する解析方法を構築することを達成し、溶媒和と脱溶媒和の効果を評価する糸口を掴んでいる。 高温NMR観測に関する実験成果においては、前年度に孤立水分子が二糖のグリコシド結合の分解反応において顕著な加速効果を持つことを発見したことを進展させ、本年度は、環状オリゴ糖および直鎖オリゴ糖の分解反応の解析に進み、水分子の水素結合の切断による反応加速効果が、二糖のみならず糖鎖が長くなった場合にも現れるということを実証した。これは、多糖であるバイオマス由来の炭水化物資源の化学転換に向けた進歩であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
水に対する溶媒和・脱溶媒和の効果と内部自由度の相関を検証するために、Lennard-Jones流体を対象に構築した解析のスキームを、水のリジッドモデルおよびフレキシブルモデルに適用し、密度および温度の関数として広い超臨界領域において系統的に検討する。内部自由度の効果に対する寄与のうち、回転運動の効果と、伸縮振動の周波数の差異の効果を分離して解析する目的で、軽水素と重水素の水の比較を行う。水分子全体の質量の効果も分離するため、酸素の同位体の計算も行い、比較する。以上の結果を、実験による並進拡散係数、回転相関時間、および並進拡散係数に対するH/D同位体比、の各々の熱力学条件に対する依存性と照らし合わせ、各々の運動モードと内部自由度と、実験値の再現性との相関を考察する。
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