本研究では、並進拡散に焦点を当て、分子動力学計算を用いて、水のリジッドモデルとフレキシブルモデルの比較を行い、内部自由度の役割について考察した。常温から超臨界に至るまでの広い熱力学条件においてフレキシビリティの役割を厳密に議論するため、フレキシブルモデルの参照として比較するリジッドモデルによる計算は、各温度・密度におけるフレキシブルモデルの平均構造における分子内構造を用いた。リジッドモデルに対するフレキシブルモデルの拡散係数を比較すると、常温付近では、リジッドモデルよりもフレキシブルモデルのほうが10%-20%程度、大きい値をとることがわかった。このことは、内部自由度を与えることが拡散を促進することを示している。フレキシビリティの効果をさらに検証するため、調和振動子とMorseポテンシャルの比較を行った。OH伸縮のポテンシャル井戸が幅広いMorseポテンシャルのほうが分子内伸縮の運動性が高く、特に常温付近でMorseポテンシャルのほうが並進拡散係数も大きいことがわかった。温度が低い範囲では、ネットワーク的な水素結合構造があるために、フレキシビリティの有無が拡散に与える影響が大きいが、温度上昇に伴い影響は小さくなった。水分子間の動径分布関数を調べたところ、リジッドモデルとフレキシブルモデルを比較すると、ピークの高さは、僅かな差ながら、リジッドモデルのほうが高かった。このことは、リジッドモデルのほうが水分子間の引力的相互作用が強く働き、拡散係数が小さいという対応関係を示している。
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