研究課題/領域番号 |
25410020
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
石橋 千英 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (10506447)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 時間分解分光 / 単一ナノ粒子分光 / 励起状態ダイナミクス / 貴金属ナノ粒子 |
研究概要 |
サイズ、形状などに依存して材料の反応性が大幅に異なるナノ構造体の物性評価には、時間と空間分解能を併せ持つ計測法が最適であり、その代表として単一分子・粒子を対象とした蛍光分光計測がある。しかし、蛍光分光法は背蛍光が少ないために容易に高感度検出を達成できるが、発光を伴わない現象に適用しにくく、時間分解能も高くない。一方で、過渡吸収分光法は、蛍光分光法と比較すると感度は高くないが、観測対象に制限がなく、基本的にあらゆる電子状態を観測可能である上に、サブピコ秒の高い時間分解能を有する。したがって、単一ナノ粒子からの過渡吸収信号を検出可能にするために高感度な測定光学系の開発が望まれる。そこで本研究課題では、①貴金属や有機半導体の単一ナノ粒子(粒径~50nm)を測定可能な顕微過渡吸収測定装置を開発し、②開発した装置を用いてナノ粒子を一つ一つ計測し、サイズや形状などに依存した励起状態ダイナミクスを解明することを目的としている。 平成25年度は、顕微過渡吸収測定装置の開発を中心に行った。過渡吸収分光と顕微鏡を組み合わせた測定系は既に開発・報告されているが、多くの場合、試料を透過した観測光を利用する。試料がナノ粒子の場合、対物レンズで集光するサイズ(500nm程度)よりも小さくなるので、透過光に加えて迷光も検出されてしまい、高い感度で計測しにくい。そこで本研究では透過光ではなく、試料からの反射(散乱)光に着目し、光学系を構築した。実際に40nmの金ナノ粒子の過渡吸収信号に対して透過光モード及び反射光モードで比較実験を行った。測定は完全同一の金ナノ粒子を用い、励起・観測光の強度や検出器の入出力などの諸条件も揃えた。その結果、反射光モードの過渡吸収信号は透過光モードよりも約100倍程度信号が増した。したがって、開発した光学系は50nm程度のナノ粒子に対して高感度に計測が行えることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、単一ナノ粒子の計測可能な顕微過渡吸収計測装置の開発を行った。これまでに報告のあった顕微過渡吸収測定装置とは異なり、試料からの反射(散乱)光を利用した測定系となっている。この光学系を用いて、40nmの金ナノ粒子に対して過渡吸収測定を行ったところ、従来の透過光モードと比較して反射光モードの方が約100倍の感度の向上が得られた。比較的順調に測定光学系の構築が進んだために、次年度に進める予定であった単一有機ナノ粒子へ応用も平成25年度中に進めることが可能になった。以上のことから、本研究の第一目標である50nm程度のナノ粒子に対して過渡吸収測定が可能な光学系の構築は、十分に達せられたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、単一ナノ粒子の計測可能な顕微過渡吸収計測装置の開発を中心に進め、最小で40nmの金ナノ粒子の過渡吸収信号を高感度に計測できた。測定装置の開発していく上で、現在二つの課題が見出された。 一つ目は、どのサイズまで測定が可能であるかという点である。現在報告されている測定手法は透過光モードであり、最小で30nm程度の銀ナノキューブの測定例がある。そこで、構築した測定装置がより小さな粒径を有するナノ粒子(市販品は、10nmまで対応可能)に対して、どのサイズまで過渡吸収信号の測定が高感度に行うことができるかどうかの判定を行う。結果次第で、プレアンプ装置や高速ADボードを購入し、構築した測定光学系に導入して対処する。 二つ目は、貴金属ナノ粒子ではなく、有機ナノ粒子へ構築した測定光学系を応用する。貴金属ナノ粒子は光劣化に強いために、比較的高い励起光強度を試料に照射しても問題はない。一方で、有機ナノ粒子に同程度の光強度を有する励起光を照射すると試料の分解が起こることが予測されるために、迅速でより微弱な過渡信号を観測可能な光学系を構築する。こちらの場合も、測定光学系にプレアンプや高速ADボードを導入して対処するために、一つ目の項目と同時に遂行可能である。 上記の平成25年度に研究を進めていく上で得られた研究課題に加えて、複合有機ナノ粒子の作製を進めていく。本研究の最終到達点の一つである複合有機ナノ粒子の顕微過渡吸収分光測定に向けて、観測対象となる複合有機ナノ粒子の作製に必要な諸条件を獲得する。現時点で、複合ナノ粒子化の諸条件を整えつつあり、このまま作製諸条件の探索を続け、年度内に複合ナノ粒子の時間分解分光測定に挑戦する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、単一ナノ粒子の計測可能な顕微過渡吸収測定装置の構築を中心に研究を行った。下記の2つの理由で次年度使用額に差が生じた。一つ目は、測定光学系の構築において、交付決定段階で研究室に有していたレーザー光源、ミラーやレンズなどの光学部品、光検出器を基に構築を行ったためである。二つ目は、研究成果の項でも述べたが、初期条件を獲得するために構築した光学系は、理論上得られる結果と同程度の結果が得られたためである。そのために当初購入を予定していた光学部品や測定機器を購入及び導入せずに、研究計画の第一目標を達成したことにより、次年度使用額に差が生じた。 余剰分の使用計画として、以下の項目を行う予定である。 前述したが、構築した装置の最大スペックを探るために、粒径のより小さな貴金属ナノ粒子の測定や有機ナノ粒子、さらには複合ナノ粒子への応用を計画している。現在の光学系は、予備的な知見を得るために行ったものであるが、予想以上に高性能を有していることが明らかになった。当初予定していた光学部品を購入することで、さらに高性能を発揮できることは容易に予測できる。したがって、計画通りに光学部品を購入する。その一方で、構築した装置の国際的な評価を得るために、国内学会や国際会議に積極的に出席し、専門知識を有する研究者と情報交換を行う予定である。そのための出張旅費に充てる。
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