本研究課題ではDNAの電荷移動における構造揺らぎと溶媒効果の役割を明らかにするための,理論的方法論の開発およびその応用を目的とした。 そこで,生体分子の全電子状態計算理論であるフラグメント分子軌道法(FMO法)と,生体分子の溶媒和理論である3次元RISM理論(3D-RISM理論)を,溶液内分子の電子状態計算理論である3D-RISM-SCF法の枠組みを拡張した形式で組み合わせた手法を提案した。(FMO/3D-RISM法)3D-RISM-SCF法の枠組みを踏襲することで,解析的な1次微分を求めることができ,生体分子の構造揺らぎを取り扱うことが可能となった。 また,本手法の効率的な計算アルゴリズムの開発を行った。 さらに電子移動を効率記述できる線形結合分子軌道ーFMO法(LCMO-FMO法)とFMO/3D-RISM法を組み合わせ手法の開発も行った。 これらの手法をDNAのモデル系への適用も行った。 一方,生体分子の構造揺らぎと溶媒和を記述するために分子動力学法(MD法)と3D-RISM法を相補的に組み合わせた手法を提案した。この手法をテスト系としてインフルエンザウイルスのノイラミニデースとその阻害剤であるタミフルの相互作用の解析へ応用し,タミフル耐性インフルエンザウイルス変異体と野生型のタミフルとの相互作用の違いの分子論を明らかにした。 本研究課題で開発した手法はDNAの電荷移動のみならず,生体内分子の電子状態変化と溶媒効果野関与する幅広い生体内過程への応用が可能であり,今後,分子デザイン・創薬等の分野への展開が期待できる。
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