研究課題/領域番号 |
25410024
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
見附 孝一郎 城西大学, 理学部, 教授 (50190682)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 白金触媒 / 酸化亜鉛 / ナノ粒子 / ナノロッド / 色素増感太陽電池 / 電解液 / 変換効率 / 有機色素 |
研究概要 |
(1)色素増感太陽電池(DSSC)の陰極上には白金ナノ粒子が担持されており、そこで酸化還元反応I3-+2e-→3I- が進行する。25年度には、アセチルアセトナート白金をポリオール法還元し粒子径5nm以下の白金ナノ粒子触媒を合成した。このナノ粒子はFTO上に極めて高い密度で塗布することが可能であった。140℃の還流冷却で合成したナノ粒子が、最も良好なエネルギー変換効率(η値)を与えた。 (2)低温焼成可能な酸化亜鉛ZnOやZnO-TiO2のコアシェル構造体はTiO2の有力な代替品である。直径約百nmのZnOナノロッド表面での色素吸着量は、TiO2の吸着量に匹敵する。ZnOナノロッドとコアシェル構造体を陽極にしてDSSCを作製したところ、それぞれ0.34 %と1.11 %のエネルギー変換効率が得られた。 (3)DSSCの陽極の多孔質半導体薄膜としてアナターゼ型TiO2ナノ粒子を分散させた2種類のペーストを自作し、これを導電性ガラス(FTO)基板に多数回塗布し焼成することでηが最大になるようにTiO2薄膜の厚みを最適化した。今年度は、2種類のナノ粒子の混合体を用意し、それを中間層として挟み込むという巧妙な階層構造を考案し作製した。現在、3層構造型セルのηは6.7%に達する。 (4)各種のイオン液体を添加剤としたヨウ素系電解液またはコバルトビピルジル錯体電解液を作製し、I-V測定と電気化学測定からセルの性能評価を行った。インドール系増感色素が吸着したTiO2薄膜を、BMIIが添加されたヨウ素系電解液で浸した場合は、面積0.23 cm2でηは最大約5.8%であった。一方、Co系電解液にDMIIを加えると沈殿が生じ懸濁したが、開放電圧は0.78Vまで上昇し、4%を超えるηが得られた。交流インピーダンス測定で、白金触媒表面とTiO2/色素界面での電荷交換反応に関わる抵抗値を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)直流又はパルス電析法を用いて白金クラスターを導電性ガラス基板上に堆積させる、という所期目標に関し、装置の組み立てはほぼ終了している。一方、アセチルアセトナート白金を原料としたポリオール還元によって、粒子径5nm以下の白金ナノ粒子触媒を再現性良く合成することに成功した。本方法はナノ粒子の凝集を温度制御できる点で、従来の塩化白金酸を開始物質にする反応に優る。 (2)ゾルゲル法と水熱法を適用してZnOナノロッドから枝分かれしたナノロッドを合成するという当初の計画は、今年度大きく進展し、高いアスペクト比を持つコアシェル構造を製作することに成功した。従来のナノロッドに対し約3倍のη値が得られている。 (3)パイ電子のプッシュプル型増感色素を新たに開発し、酸化亜鉛ナノロッドに高密度に吸着させるという計画は、トリフェニルアミンを電子供与基にシアノアクリル酸を電子受容基に持つ新規増感色素を利用することで計画を大幅に超えた成果が得られた。特に、トリフェニルアミン骨格に橋架けして平面性を変化させることで、η値が顕著に変化した。 (4)電解液の最適化については、新たにコバルトビピルジル錯体を利用することでヨウ素系電解液に匹敵する変換効率が得られている。本コバルト錯体はRu色素よりも有機色素と組み合わせたときに良好な結果を示すため、太陽電池開発におけるコストパフオーマンスの面からも長期安定性の面からも将来有望である。 (5)酸化亜鉛多分枝ナノロッドの伝導帯電子又は色素カチオンを過渡発光法でプローブするという計画は、ダイオードレーザーとストリークカメラと分光器を組み合わせた時間分解発光システムの調整が終わり、平成26年度春から本格的なデータ取りに着手する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)白金クラスターのパルス電析を実施し、パルス波形、溶液濃度、温度などの影響を検討する。交流インピーダンス測定に必要な装置は研究室に導入したので、これまでと異なり委託分析にかかる時間的ロスはない。 (2)ZnOコアTiO2シェル構造のナノロッドについては、ギ酸イオンの包摂を防ぐ為の酸処理を行い、pHと水熱合成時間を調整して、枝部分の長さを延ばす計画である。その上でナノロッドを含む光電変換電極を作製し、光電子分光と過渡発光の測定を行うことは、研究計画調書に記載したとおりである。 (3)トリフェニルアミン(TPA)を電子供与基にシアノアクリル酸を電子受容基に持つ新規増感色素に関しては、今後はパイ電子輸送系をチオフェン骨格に変えて、吸収極大を赤外領域へのシフトを企図している。 (4)調書には、酸化亜鉛多分枝ナノロッドとトロポロン骨格を持つD-Π-A型色素によって構成されるアノード電極を作製すると述べている。ここでトロポロン上のカルボニル基の酸素と水酸基がZnOに配位する。TPAとトロポロン骨格を結合させたアゾ色素は既に性能評価済みなので、あとはZnOまたは枝分かれZnOにこの色素を高密度吸着させるための条件を探る必要がある。また、ZnOの伝導帯とのエネルギー関係を正確に求めるために、サイクリックボルタンメトリと可視分光測定から色素のHOMO、LUMO準位を推定する予定である。 (5)ZnO多分枝ナノロッド上のD-Π-A型色素ならびに酸化チタンナノ粒子上のRu金属錯体を組み合わせて、並列タンデム構造の色素増感太陽電池を作成する。2種類の色素に相補的な吸収スペクトル分布を持たせることで、10%を超える高い変換効率の獲得が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
最初の予定では、主な物品として交付申請書に記載した電気化学アナライザーを用いて、白金ナノ粒子のクロノアンペルメトリーと交流インピーダンス測定を行う計画であつた。しかし研究が進むに連れて、導電性ガラス上のキャリア移動度とインピーダンスを正確に導きだすためには、当初選定した機器ではその性能が不足していることが次第に分かってきた。このため、再度、機種選定する必要が生じた。その一方で、ZnOナノロッド表面の正確な面抵抗を測定しなければならなくなった為、「抵抗率計」を新規購入した。これら2つの機器の差額によって、次年度使用額が主に発生した。 クロノアンペルメトリー用の電気化学アナライザーについては、ポテンショスタットとガルバノスタットを組み合わせて自作システムを組み立てる予定にしている。次年度使用額は主にガルバノスタットの購入に充てる。
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