研究課題/領域番号 |
25410026
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
久世 信彦 上智大学, 理工学部, 准教授 (80286757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 気体電子回折 / エアロゾル / クラスター / エアロダイナミック・レンズ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,「大気エアロゾル粒子の構造決定手法の確立」にある。具体的には気体電子回折の手法を用い,エアロゾルの粒径をコントトールして作り出すためのノズルの開発と実験装置の改良を行う。さらに効率の良いデータ解析手法の開発も目指す。この装置を応用することによって超分子やクラスターを対象とした,気体電子回折の新しい研究手法の確立を目指す。 気体電子回折はマイクロ波分光法と並び,気体状態の精密な分子構造を研究する有力な実験手法である。真空装置内で気体分子が高速電子(40-60 kV)と弾性散乱することによって回折像が得られ,それを解析することによって,原子間距離を0.1 pmのオーダーで直接的に決定できるという,高い実験精度をもつ。気相での分光測定に比べ,気体電子回折では実験およびデータ解析手法の困難さのため,これまでエアロゾルやクラスターに関する研究が少なかった。気体電子回折では原子間距離を実験的に決定できるため,クラスターのサイズだけではなく,全体的な形に関する実験的情報を提供できる点が特色となっている。 今年度は真空装置の差動排気を行うため,エアロダイナミック・レンズをカバーする部品の設計・製作を行った。エアロダイナミック・レンズとは大気環境に存在しているエアロゾルのモデルクラスターを生成させるために使用される棒状の金属性ガスノズルである。また前年度に引き続き真空装置の排気系の改良を行った。また多種多様な分子の回折データに対応するため,データ解析プログラムの一部を新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度にエアロゾル,クラスター生成用のエアロダイナミック・レンズの設計と製作を行った。エアロダイナミック・レンズは気体電子回折実験の真空装置内にすべてを収められるサイズではないため,真空漏れを起こさないよう,棒状のノズル部品を外側から真空チェンバー内部に差しこむように取り付ける必要がある。またエアロダイナミック・レンズを電子ビーム方向に対して適切な位置に調整できるような機構を設けなくてはならない。さらにエアロダイナミック・レンズから噴出されるガスによって装置内の真空度が急激に悪化しないように,差動排気システムを導入する必要がある。 これらの問題を検討するため,エアロダイナミック・レンズの先端部を覆うようなステンレスカバーの設計と製作を行った。カバーは複数の部品から成り立っており,エアロダイナミック・レンズの延長上には市販のスキマーを取り付けられるようにした。スキマーとエアロダイナミック・レンズの間の距離が変えられるような設計にするとともに,カバー自体の長さも微調整できるようにした。気体をエアロダイナミック・レンズのノズルから噴射した際に,カバー内の圧力が急上昇すると考えられるが,別系統の真空ポンプで差動排気できるように配管の設計を行った。 また現在の実験装置は真空装置の到達真空度がまだ高いため,昨年度に引き続き,排気系の検討を行った。ベローズ配管とバルブの交換を行うことで,より良い排気系にするため,装置の改造を行った。 さらに今後の回折データの解析を見据えて,解析プログラムの一部を刷新した。回折強度の理論値を計算するのに必要なミュー・ファクターと呼ばれる量をこれまでと違った方法で計算するためのプログラムを新たに開発した。 今年度は主要な目標であるステンレスカバーの製作作業を進める事ができたため,研究はおおむね順調に進行していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
真空装置の上部にあたる電子銃と電子線のコントロール部において,油回転ポンプでの初期排気のスピードが想定よりも遅いという問題点に対して,今年度は排気系の一部改良を行ったが,今後は装置のさらなる高真空度化をはかるとともに電子ビームの最適実験条件を決める。 並行してエアロダイナミック・レンズおよびそれを覆うステンレスカバーを装置に取り付け,エアロダイナミック・レンズの動作確認を行うとともに,ステンレスカバーとの真空漏れのチェックを行う。実際にテストサンプルを流してみて,エアロダイナミック・レンズが実験中常にステンレスカバー円筒と同軸にあるかどうか,ステンレスカバー内の差動排気が適切かどうか,真空チェンバー内の圧力が急激に悪化しないかどうかなどの点について検討し,電子線のコントロールとノズルのアライメントが同時かつスムーズに行えるかどうかを検討する。 エアロダイナミック・レンズの仕様が定まった段階で,二硫化炭素などのサンプルを使用し,その回折像を写真法で測定する。通常のニードルタイプを使った孤立分子系の回折パターンとエアロダイナミック・レンズを用いての回折パターンを測定し,それらの違いを検討する。またエアロゾル・クラスターの回折データの解析の手始めとして,量子化学計算によりクラスター構造を推定し,それをもとにして気体電子回折パターンの理論値を求めるための計算プログラム開発も合わせて行う。 今後の研究の方針としてはエアロダイナミック・レンズによる実験装置開発を優先するが,同時にデジタル測光系の開発作業も平行して検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の装置改造計画の中心は,エアロダイナミック・レンズを覆う可動式のステンレスカバーの設計と製作であった。部品設計は研究代表者が行い,外注を行わなかった。またステンレス部品の材料費と加工費について多めの予算配分を行っていた。結果的にステンレスカバーの試作品および附属部品の支出額が当初見込んでいたものよりも大幅に少なくなったため,次年度使用額が生じた。また今年度は真空装置の排気系の更新作業を行い,真空部品に関する予算も計上していたが,真空ベローズなどの部品が現有のもので対応できたことも次年度使用額が生じた理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分の助成金と合わせ,本課題の目的であるエアロダイナミック・レンズのシステムをより良いものにしていくため,レンズ本体やそのカバーについてさらなる部品設計を行い,その試作のために次年度使用額を使用する予定である。今後の研究を見据え,システムの規格が定まった時点で,附属・交換部品の購入を進めていきたいと考えている。また実験装置の操作性を高めるとともに真空度の向上を図るための部品の購入に次年度使用額を充てる予定である。さらに今年度は海外学会での研究発表を3回予定しているため,それらの参加登録費や旅費に使用する予定である。
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