研究課題/領域番号 |
25410029
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
北濱 康孝 関西学院大学, 理工学研究科, 専門技術員 (00342775)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光ピンセット / 表面増強ラマン散乱 / 表面増強ハイパーラマン散乱 / 赤外吸収分光 |
研究概要 |
従来、表面増強ラマン散乱(SERS)や表面増強ハイパーラマン散乱(SEHRS)スペクトルは、基板上に固定された金属ナノ構造体から測定されてきた。当該研究において、近赤外光でレーザートラップした任意の銀ナノ微粒子に吸着した色素からのSERSとSEHRSならびに赤外吸収スペクトル(IR)の測定を行い比較する事で、レーザートラップを用いた表面増強振動分光マッピングを行う際の基礎的な知見が得られると思われる。 ローダミン6Gでは、IRとSEHRSのスペクトルの形が非常に似ていることから、同じ赤外活性の振動モードが観測できていると言える。ただし興味深い事に、1082cm-1の振動ピークはIRスペクトルにしか観測されていない。 クリスタルバイオレット(CV)では、SERSとSEHRSのスペクトルのピーク位置が似ている結果になった。この結果は分子構造と何らかの関係があると考え、形の対称性を落としたマラカイトグリーンでもSERSとSEHRSを測定したが、CVと同様の結果が得られた。CVの場合、1297cm-1にIRとSERSで大きいピークが現れるのに対して、SEHRSでは弱いピークしか検出されなかった。 二種類のチアカルボシアニンでは、IRスペクトルにおいて多数のピークが出現して同一とは言い難かった。SERSスペクトルは互いに似ているのに対して、SEHRSでは信号強度が弱いものの異なるバンドが観測された。 通常、IRで観測される振動モードはハイパーラマン散乱でも観測されるはずである。当該研究課題のIRとSEHRSスペクトルの不一致から、表面増強効果の発現を左右する分子配向の情報が得られる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究ではローダミン6G(R6G)において、IRとSEHRSのスペクトルの形が非常に似ているものの、1082cm-1の振動ピークはSEHRSスペクトルで観測されていない、という結果が得られた。またクリスタルバイオレット(CV)でも、IRとSERSで大きいピークが1297cm-1に現れるのに対して、SEHRSでは弱いピークしか検出されなかった。通常、赤外吸収スペクトルで観測される信号モードはハイパーラマン散乱でも観測されるはずである。当該研究におけるIRとSEHRSの不一致は、表面増強効果の発現を左右する分子配向の情報が得られる可能性があり、非常に興味深い。 積層構造が異なるためにJあるいはH会合体を形成する二種類のチアカルボシアニン(TCC)のSEHRSでは、互いに異なるバンドが観測された。TCCのIRスペクトルには、分子が会合しやすいためか多数のピークが現れて、水溶液中での単量体の赤外活性モード観測が困難であるが、プラズモン増強電磁場に起因するSEHRSならば観測できるという重要性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
表面増強振動分光は金属ナノ微粒子間の増強電磁場に起因し、その偏光方向と振動モードとの一致が重要であると考えられている。すなわち、銀表面に吸着した色素分子の配向に伴う振動モードの方向が、増強電磁場の偏光方向と一致していないためにSEHRSが発現していない可能性がある。そこで、分子計算により当該振動モードを可視化することで、その可能性を議論する。この手法を用いる事で、平成26年度の研究目標である「吸着分子の配向方向の情報」を、励起光の偏光方向を変えること無く得られるかもしれない。 また、二種類のチアカルボシアニンのSEHRS信号の向上を目指す。現在は、ガラス基板に固定した銀ナノ凝集体からの測定を行っているが、レーザートラップでも十分な強度で測定できるようにしたい。銀ナノ粒子を近赤外領域にプラズモン共鳴バンドを持つ金ナノ粒子に変更することや、凝集や吸着を助けるための塩を文献に記載されているポリアクリル酸に変更することも考えている。
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