従来は、生体細胞に金属ナノ微粒子を挿入あるいは吸着させて表面増強分光測定が行われてきたが、希望の場所に固定して任意の位置から測定することは困難であった。今回、酵母細胞をサンプルとして、近赤外光の集光で可能となるレーザートラップと表面増強ハイパーラマン散乱(SEHRS)測定を組み合わせることで、任意の位置からの高感度振動分光測定を行った。 通常の銀ナノコロイド微粒子をレーザートラップして酵母細胞に捕捉すると、泡が発生して測定ができなかった。一方、p-メルカプト安息香酸(PMBA)を吸着させた銀ナノコロイド微粒子をレーザートラップして酵母細胞に捕捉すると、PMBAからのSEHRSスペクトルを得ることができた。PMBAを吸着させた場合は、表面増強ハイパーレイリー散乱も強く観測されていた。このことから、光熱変換が抑制されて泡が発生せずに測定できたものと考えられる。 pH標準液(ホウ酸ナトリウム)で弱アルカリ性にすると、SEHRSスペクトルを効率良く測定できた。市販のパン酵母では、pH標準液で弱アルカリ性にしているにも関わらず、アルカリ性を示すPMBAのSEHRSピークがほとんど観測されず、酸性を示していた。また、PMBA以外の複雑なピークが数回観測された。一方、実験用の酵母ではアルカリ性を示すPMBAのSEHRSピークも観測された。このように発酵効率の違いを測定できたと言える。 酵母の異なる場所に、PMBAを吸着させた銀ナノ微粒子をレーザートラップしてSEHRSを測定したところ、場所によってアルカリ性を示すPMBAのSEHRSピークの相対強度が異なっていた。これは任意の位置でのpHの違いを高感度測定できたと言える結果である。
|