研究課題/領域番号 |
25410030
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
倉重 佑輝 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (30510242)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水分解反応 / 金属酵素 / 多参照電子相関理論 / 密度行列繰り込み群 |
研究概要 |
光合成系II水分解反応の機構解析を進める上で起点となるX線結晶構造(S1中間状態)の妥当性を検討するために、反応を触媒するマンガンクラスターについてマンガン原子の3d軌道と架橋酸素原子の2p軌道を全て活性空間に含めた完全活性空間自己無撞着場理論(CASSCF法)を用いた解析を行った。このように大きな活性空間のCASSCF法は不可能と考えられていたが、電子状態に内在する量子もつれの構造を上手く利用した密度行列繰り込み群法を用いることにより達成した。得られたCASSCF波動関数を用いたマンガン原子の酸化状態解析からは、最新のX線結晶構造を仮定すると電子スピン共鳴分光など他の実験との齟齬が生じることが見いだされた。本結果よりX線結晶構造が酸化状態の再現に必要な~0.1Åの精度を満たしていなかった可能性が示唆される。またマンガン原子酸化数の異なる2つの状態のエネルギーポテンシャル曲線を反応座標に沿って上述と同じくCASSCF法により計算し2つの状態が交差する点を発見した。またCASSCF波動関数を用いたマンガン原子のスピン射影の解析法を開発し、スピン二重項状態にあるとされるS2中間状態において実験値との比較から水素付加状態を含めた構造の妥当性の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画の通りX線結晶構造(S1中間状態)の妥当性の検討を行うことが出来た。計算結果からX線結晶構造が酸化状態の再現に必要な精度を満たしていない可能性の高いことが示唆され、そのまま反応機構解析に用いることは出来ないため多参照電子相関理論や密度汎関数理論により修正を行う必要が生じた。またマンガン原子酸化数の異なる2つの状態のエネルギーポテンシャル曲線では2つの状態が交差する点を発見することができ、金属錯体の高い触媒能を支える特徴の一つとして、状態交差点でポテンシャル曲面を巧みに乗り換えエネルギーの高い山(反応障壁)を回避しながら効率的に反応を進めることが知られており、一般には、その状態交差はスピン状態に変化が伴う交差すなわち項間交差で起こると考えられてきたが、発見した状態交差は、スピン状態を変えることなく交差する円錐交差である。項間交差と比べ円錐交差での状態の乗り移りは格段に効率がよいことからも、マンガンクラスターの持つ高い触媒能を解き明かす上で特に重要な知見であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
X線結晶構造では決定されない水素付加状態とその水素結合ネットワークの決定を進める。水素付加状態や水素結合ネットワークの差異による構造の変化は小さいと考えられ、例えば酸化状態などからは分子構造の妥当性を検討することは難しいと考えられるため、より構造の差異に敏感な物性値、例えばスピン射影などの電子スピン共鳴分光測定を用いた解析から得られるEPRパラメーターの比較を進める。これらの物性値を定量的に求めるために必要な電子相関のレベルはいままで十分に検討されたことはないので、密度行列繰り込み群法の行列積波動関数からEPRパラメーターを算出する理論を開発すると共に必要な電子相関のレベルの検討をモデル錯体など高精度な実験値の存在する分子系で行う。また最終的に反応経路を決定する際には行列積波動関数を参照関数とする多参照電子相関理論によりポテンシャルエネルギー曲面を計算する必要があるが、これについても例えば水分解反応におけるラジカルカップリングによる酸素分子生成に対して複核金属錯体系で必要な電子相関レベルの検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費にあたる計算機が3月に納入されたが3月末日までに支払い処理が完了せず,次年度の使用額として計上することとなったため。 計算機が本年度3月に納入され,次年度使用額ほぼ全額をその支払いに使用する計画である。
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