研究課題/領域番号 |
25410031
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
黒野 暢仁 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10333329)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 不斉合成 / Strecker型反応 / 光学活性アミノ酸 / 光学活性ジホスフィン / リチウム化合物 / ルテニウム錯体 |
研究概要 |
これまでに光学活性ジホスフィンとアミノ酸配位子としたルテニウム錯体とリチウム化合物から構成される触媒系を用いて不斉共役シアノ化反応の開発研究を行ってきた。α,β-不飽和ケトンを基質とした反応では、基質触媒比(S/C) 500~1000の条件下、高収率かつ高エナンチオ選択的に目的生成物が得られ、基質適用性とルテニウム錯体の回収・再利用について報告した。この触媒系は、α,β-不飽和カルボニル化合物(C=C-C=O)と電子的に類似の構造をもつ、N-ベンジルオキシカルボニル(Cbz)アルジミン類(C=N-C=O)への不斉シアノ化反応(Strecker型反応)にも高い触媒活性とエナンチオ選択性を示した。 本研究は、これらの研究成果に基づいてケチミン誘導体への不斉シアノ化反応の開発を行うものである。得られる生成物が医薬合成中間体として高い需要が見込まれる光学活性α,α-二置換アミノ酸の前駆体であり、既報の手法では触媒活性が低いため、より優れた反応の開発が必要である。 窒素にCbz基を導入したアセトフェノンイミンをモデル基質として各種条件検索を行った。ジホスフィン配位子に(S)-BINAP、アミノ酸配位子に(S)-フェニルグリシン(PhGly)を有するルテニウム錯体Ru[(S)-phgly]2[(S)-binap]とPhOLiを触媒として、シアン化水素をシアノ化剤として用いた。その結果、定量的に反応は進行して、59%eeで生成物を与えた。シアノ化剤にシアン化トリメチルシリル(TMSCN)を用いると、約90%eeの鏡像体過剰率でα-アミノニトリル誘導体を与えた。また、アミノ酸配位子に脂肪族のアラニンやバリン等を用いた場合には、エナンチオ選択性が極度に低下した。これらの結果から、26年度はシリルシアノ化反応における触媒の最適化から研究を開始する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素にCbz基を導入したアセトフェノンイミンをモデル基質として、各種条件検索を行った結果、ジホスフィン配位子に(S)-BINAP、アミノ酸配位子に(S)-フェニルグリシン(PhGly)をもつルテニウム錯体Ru[(S)-phgly]2[(S)-binap]とPhOLiの触媒系を用いて、S/C=100、反応温度0℃の条件下、シアン化水素をシアノ化剤として用いた初期検討では、定量的に反応は進行して、59%eeで生成物を与えた。シアノ化剤にシアン化トリメチルシリル(TMSCN)を用いると、最大で89%eeの鏡像体過剰率を与えた。ジホスフィン配位子にTolBINAPを用いたRu[(S)-phgly]2[(S)-tolbinap]の場合には90%eeに到達した。ジホスフィンの立体環境の影響を検討するためにXylBINAP、SEGPHOSあるいはH8-BINAPを用いて検討を行ったが、いずれも90%eeを超える鏡像体過剰率は得られなかった。 系中ではPhOLiはTMSCNと反応し、発生したLiCNとルテニウム錯体が相互作用により二金属錯体を形成し、触媒活性種として働くと考えている。従って、別途調製したLiCNを用いて検討した結果、PhOLiを用いた場合と同様の結果を与えた。また、ブチルリチウムを用いた場合にも同等の鏡像体過剰率で生成物を与え、上述の仮説を支持する結果を得た。 25年度は、モデル基質とTMSCNによるシリルシアノ化反応においてRu[(S)-phgly]2[(S)-tolbinap]とPhOLiの触媒系が活性を示し、目的生成物であるα-アミノニトリル誘導体をほぼ定量的に90%eeで与えることを明らかにした。初年度において、基盤となる触媒系の発見ができたことから、概ね順調に本研究課題が進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
モデル基質のシリルシアノ化反応において、高収率かつ高エナンチオ選択的に生成物を与える触媒系を発見した。基質触媒比は未だ100であり、効率において不十分である。26年度は、さらなるエナンチオ選択性と基質触媒比の向上を達成するために、不斉反応場を形成するジホスフィンおよびアミノ酸配位子の化学的構造と錯体形成適用範囲を明らかにする。(1)現行のルテニウム錯体で不斉場に影響を及ぼすのは、ジホスフィン配位子のリン原子上の置換基とアミノ酸配位子のα位の置換基であると考えているので、錯体形成における立体的な嵩高さを総合的に検討する。(2)反応を進行させる上で重要視しているアミノ基上のプロトンを置換した配位子を検討する。(3)反応場のしなやかさを考慮したβ-あるいはγ-アミノ酸配位子を用いた錯体形成を検討する。(4)また、ルテニウム以外の中心金属の可能性を検討する。(5)得られた錯体とリチウム塩の複合化を試し、NMR、質量分析、元素分析、X線結晶構造解析で不斉リチウム塩の形成を明らかにする。なお、NMRスペクトルでは、溶液中のリチウム塩とルテニウム錯体の相互作用は、アミノ基プロトンが化学シフトが低磁場シフトすることで観測できるので簡便に理解できる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
消耗品である精製の具材の購入において、当初予定していた金額よりも安く購入ができたことなど、購入先との交渉努力により支出を抑えることができたことが最大の理由である。 今年度も可能な限り、価格交渉により支出を抑えていく一方で、より効率的に研究成果を挙げられるように試薬の購入で工夫をしていく。例えば、コストを抑えるために多段階合成をする代わりに、もし目的生成物が購入できるのであれば、価格と費やす時間のバランスを考慮して、積極的に購入していくことを計画している。
|