研究課題/領域番号 |
25410034
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
一戸 雅聡 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90271858)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 典型元素化学 / 有機ケイ素化合物 / 常磁性化学種 / 高スピン化学種 |
研究実績の概要 |
これまでに申請者はベンゼン環のパラ位で二つのシリルラジカルを連結した分子の合成に成功し、その分子構造解析から環外Si=C結合を持つキノイド型基底1重項分子であることを明らかにした。ベンゼンより芳香族安定化エネルギーの大きいπ共役分子を連結子に用いたビス(シリルラジカル)では、環外Si=C結合の形成による脱芳香族による不安定化より大きくなるため、ケクレ構造を描くことが出来る分子であっても基底3重項分子になりうるのではないかという予想の下、ナフタレンの2、6位またはビフェニルの4、4’位に二つのシリルラジカルを連結した分子の合成を行い、その構造及びスピン状態について検討した。 ナフタレン架橋ビス(シリルラジカル)は、固体状態において平面3配位シリルラジカル上の3p軌道とナフタレン環π軌道間の共役が発現し、ナフタレン環内のC-C結合に結合交替が現れたナフトキノン型構造をとり、基底1重項分子であることが分かった。 一方、ビフェニル架橋ビス(シリルラジカル)は、固体状態において平面3配位シリルラジカル上の3p軌道とベンゼン環π軌道間の共役が発現しにくい捻れた構造をとり、2つのベンゼン環内炭素-炭素結合に結合交替がほとんど無いことから、ビス(シリルラジカル)としての性質が強いことが示唆された。しかしながら、温度可変EPRスペクトルおよびUV-Visスペクトルの温度依存性の解析から、二つのシリルラジカルは反強磁性的に相互作用した基底1重項分子であることが示された。しかしながら、極低温においても3重項種が観測できるほど1重項-3重項エネルギー差が小さく、溶液中、室温ではむしろ3重項種が支配的な平衡混合物として存在することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階における計画通り、ナフタレンやビフェニルなどのπ共役系分子を連結子とするビス(シリルラジカル)の合成、単離に成功し、その分子構造、スピン状態を明らかにすることができた。また、研究実績概要には記述していないが、σ共役系分子として知られているオリゴシランとして最も単純なジシラン鎖を連結子とするビス(シリルラジカル)の合成にも成功し、その基底状態が3重項であることも予備的解析で明らかになっており、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ベンゼン環を二つ含むナフタレンの2、6位またはビフェニルの4、4’位に二つのシリルラジカルを連結した分子の合成を行い、その構造及びスピン状態について検討したが、いずれも基底1重項分子であった。しかし、いずれも1重項―3重項間のエネルギー差が極めて小さいことも示されており、さらにベンゼン環を増やすことでより1重項状態を不安定化すれば、ケクレ構造を描くことが出来る分子であっても基底3重項分子になりうるのではないか十分に予想される。平成27年度では三つ含むアントラセンやテルフェニルなどを連結子に用いたビス(シリルラジカル)やビス(ゲルミルラジカル)の合成を行い、その構造とスピン状態の解明を行う。 また、予備的検討を進めてきたσ共役系分子であるオリゴシランを連結子とするビス(シリルラジカル)の合成を引き続き行い、構造、スピン状態、および反応性に及ぼすオリゴシラン鎖長依存性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度初めに改修工事が終了した建屋への実験室の移設、整備を行ったため、約1ヶ月間(平成26年4月)実験研究が出来ない期間があった。また、隣接する建屋の改修工事が平成26年7月から始まったことに伴い、同建屋内に設置していた当研究室所有の大型測定装置(超伝導核磁気共鳴、単結晶X線結晶構造解析システム)の運用を停止したため、それらを用いた測定で使用する特殊溶媒などの消耗品の使用量の減少などにより、当初計上していた予算を執行しきれずに一部平成27年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
当研究室所有の大型測定装置(超伝導核磁気共鳴、単結晶X線結晶構造解析システム)を設置していた建屋の改修工事が平成27年3月末で終了しており、平成27年5月には大型測定装置が再稼働する予定である。本研究を申請した時点での研究スピードを回復するので、繰越金も含めて合成実験を主とした研究で必要になる試薬等の消耗品購入に当てさせて頂きたいと考えている。
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