研究実績の概要 |
これまでに申請者は複数の3配位シリルラジカル部位を炭素π電子系であるベンゼン、ナフタレン、ビフェニルなどで連結したオリゴ(シリルラジカル)を合成し、それらの構造、スピン状態について明らかにしてきた。炭素π電子系はπ電子の非局在化(π共役)による特徴的な連結子である。一方で、ケイ素―ケイ素単結合で連なったオリゴシランは、ケイ素-ケイ素σ結合電子の非局在化によるσ共役を発現することが知られている化合物であり、σ共役系連結子を介したオリゴ(シリルラジカル)における構造、スピン間相互作用等に興味が持たれた。平成27年度では、二つのシリルラジカルをσ共役系オリゴシランで連結した種々のビス(シリルラジカル)として、最も鎖長の短いジシラン鎖で連結した分子(テトラシラン-1,4-ジイル種)の合成を行い、その構造、スピン状態の解析を行った。 テトラシラン-1,4-ジイル種は、両端に嵩高いトリアルキルシリル基を4つ導入した対応する1,4-ジブロモテトラシランの還元的脱臭素化により合成、単離に成功した。単結晶X線結晶構造解析で決定した分子構造では、3配位シリルラジカル部位を含むテトラシラン鎖のSi-Si-Si-Si二面角が167度のトランソイド構造で、且つ3配位シリルラジカル上の3p軌道と中央のケイ素-ケイ素σ軌道が共役可能な配座を持つことが分かった。リアル分子における一重項状態および三重項状態に関する理論計算により基底三重項状態と推定され、電子スピン共鳴分光法により実験的にも基底三重項種であると決定した。 また、テトラシラン-1,4-ジイル種の化学的反応性についても検討した結果、溶液中では中央のケイ素-ケイ素σ結合で解裂した2分子のジシレンとの平衡状態にあることも明らかとなった。
|