研究課題/領域番号 |
25410038
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
依田 秀実 静岡大学, 工学研究科, 教授 (20201072)
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研究分担者 |
高橋 雅樹 静岡大学, 工学研究科, 准教授 (30313935)
仙石 哲也 静岡大学, 工学研究科, 助教 (70451680)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イサチン / アミドアリル化 / 不斉触媒 / 立体選択性 |
研究実績の概要 |
3-hydroxyoxindole骨格を持つ化合物群が、有用かつ強い生理活性を発現することが新たに突き止められたため、従来法では不可能な水溶液中での弱い相互作用、あるいは前例の無い有機分子触媒的不斉脱硫-ヒドロキシル化反応に基づく、新たな骨格構築法の開発とその合成戦略について検討している。 昨年度は、3-hydroxyoxindole類の基本骨格の構築について、キラル配位子である(S)-Ph-pyboxを利用し、官能基を持つβ-アミドアリルすずを用いた N-メチルイサチンのアリル化について検討した結果、10 mol%の触媒を用いるだけで99%の化学収率、および99%eeというほぼ完全な立体選択性の獲得に成功し、対応する薬理活性天然物の全合成にも成功している。そこで本年度は、この反応をまずすず試薬の窒素原子上に p-トリル基や p-アニス基、n-ペンチル基をもつ化合物に拡張し、同様の反応を検討したところ、いずれも定量的(95~99%収率)かつほぼ完全なエナンチオ選択性(97~99%ee)にて進行し、対応するアリル付加体を与えることが分かった。 さらに、イサチン窒素原子上の置換基が異なる誘導体および芳香環にヨウ素原子を導入したものについても検討したところ、同様に極めて優れた結果 (up to 99%, 99% ee) を与えることが判明した。 そこでこの反応の詳細な反応機構を追及することとした。スズ試薬上の窒素原子に置換基を導入して3級アミドとしたり、あるいは添加物として単純な2級アミドを添加することによる効果の確認、さらには試薬を逐次追加するたびに詳細な機器分析を行うことでその中間体の確認を行った。その結果、本反応の詳細な機構を突き止めることに成功した。 最終年度には、本反応の鎖状化合物への拡張が可能かを確認するとともに、その応用範囲を探索することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3-hydroxyoxindole骨格については、最近数年間で極端に多くの反応開発や合成報告がなされている。これはカルボニルα-位に水酸基を持つ骨格が優れた生理作用を有することのみならず、重要なインドール誘導体への官能基変換が容易であることによる。 一般的にα-メチレン-γ-ブチロラクトン骨格を有する化合物は強力なMichael 受容体として機能し、抗癌活性や抗炎症活性作用を示すことが知られているため、この骨格と2-オキシインドール骨格を複合化したスピロラクトン型オキシインドール骨格の構築に強い興味を持った。これらの骨格は、 Heindel等によって薬理活性調査がなされており、それによると、5-ヨードスピロラクトンのラセミ体が鼻咽頭癌や P-388リンパ性白血病に対する阻害活性を示すと報告されている。 そこで本年度は、この反応をまず初めにすず試薬の窒素原子上に p-トリル基や p-アニス基、n-ペンチル基をもつ化合物に拡張し同様の反応を検討した。その結果、いずれも定量的(95~99%収率)かつほぼ完全なエナンチオ選択性(97~99%ee)にて進行することを確認するとともに、イサチン窒素原子上の置換基が異なる誘導体および芳香環にヨウ素原子を導入したものについても検討したところ、同様に極めて優れた結果 (up to 99%, 99% ee) を与えることが判明した。そこで、この反応の詳細な反応機構を様々な手法を駆使して追及し、初めて本反応の詳細な機構を突き止めることに成功した。 この結果はこの分野の研究成果としては画期的であり、反応の汎用性や機構を詳細に検討する必要性があるとともに、将来的には鼻咽頭癌や P-388 リンパ性白血病に対する阻害活性剤の更なる探索としての応用面も期待される。 以上のことより、評価を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の検討課題は次の通りである。まず、 (1)求核反応を受ける化合物を、これまでの環上ジケト化合物から鎖状化合物に変換しその動向を調査したい。すなわち、構造的に制限された骨格から自由にフリーローテーションできる骨格へと返還することによって、中間体(あるいは遷移状態)の変化、およびそのことによる立体効果が如何なるものかを点検したい。これにより求核剤の汎用性の確認ができるとともに、反応機構の更なる裏付けが期待されることになる。 (2)これまでの本反応は、環状のケトアミド構造を持つものに限られていたが、これを鎖状化合物とすることにより、ケトアミド構造のほかにケトエステル、あるいはジケト型構造へと拡張して調査することができ、これにより求核反応を受ける基質の適用性が理解できる。 (3)次に、鎖状化合物におけるアリル化体を利用したメチレンラクトン骨格への変換を試みたい。アリル化体の環化反応では、一般的に水溶液中での弱い相互作用を利用した酸性条件による場合がほとんどである。一方、反応サイトはカルボニルのα-位であるためにラセミ化を伴いやすいことも事実である。そこで詳細にこの環化反応についても検討したい。昨年度実施した強い生理活性を持つスピロラクトン型オキシインドール合成においては、生成物の高い光学純度の確保は避けて通ることのできない課題であったが、本年度計画している3級炭素を持つメチレンラクトン化反応においても、この問題は克服すべき命題であるとともに、核心的課題であるとも考えている。 (4)次年度検討できるかは不明であるが、将来的には鎖状化合物を用いた場合の詳細な機構についても調査をする必要性があることは言うまでもない。この反応機構を詳細に理解した上で、他の基質への高エナンチオ選択的合成法の確立を目指すとともに、スズ試薬を用いない新たな環境調和型アミドアリル化反応の開発にも挑戦したい。
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