本年度は前年度合成に成功した初めての窒素含有お椀型分子「アザバッキーボウル」の物性解明を行った。まず、光化学測定を行ったところ、これまで報告されているお椀型分子中において優れた蛍光量子収率をもつ発光を示すことを見いだした。また、C60と強い会合挙動を示すことをNMR測定および光化学測定により明らかにした。最終的には会合体の構造をX線構造解析により明らかにした。また、この会合体のキャリア移動度を測定したところ、C60が存在しない状態に比べて約10倍のキャリア移動度を示すことを見いだした。最後に、中心の窒素元素の塩基性を明らかにするべく、酸の添加実験を行ったところ、酸性溶媒中でUV吸収スペクトルが劇的に変化することを見いだした。このスペクトルは一電子酸化によっても得られることから、アザバッキーボウルは酸性溶媒中で容易に酸化され、ラジカルカチオンを生成する性質があることを見いだした。以上の結果はNat. Commun.に報告し、Nature Asia Japanにハイライトされた画期的な成果となった。 ねじれたポルフィリンでは、中心に亜鉛金属を配位させることに成功し、その構造解析から、ニッケル錯体と同様のねじれた構造をとることを明らかにした。この亜鉛錯体にキラルアミンを添加したところ、コットン効果を示すCDスペクトルが得られることを見いだした。このことはキラルアミンによってポルフィリンのねじれが誘起されたことを示す結果である。また、X線構造解析により、キラルアミンとメゾ位の置換基の立体的な相互作用が二つの光学異性体のエネルギー差を生み出していることを明らかにした。この結果はChem. Asian. J.に報告し、同誌のInside Coverに選定された。
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