研究概要 |
本年度は、系統的にアセンとフラーレン類との反応について明らかにするため、まず、C60とペンタセンとのDiels-Alder反応を詳細に検討した。 ① C60とペンタセンとのDiels-Alder反応 我々が報告した位置特異的に中央の環で反応するペンタセン誘導体 (Chem. Lett. 2012)を用い、C60フラーレンとのDiels-Alder反応を行った。この反応では、きれいに反応が進行し、C60-ペンタセンmono付加体を75%の収率で得た。無置換のペンタセンとC60とのDiels-Alder反応では、ペンタセンに対し様々な配向で異なる数のC60が付加することが報告されているが、各種NMR、UV-Vis-NIR、およびMALDI-TOF-MSの測定により、得られた付加体の構造を詳細に検討したところ、位置特異的にペンタセン骨格の6,13位に1つのフラーレンが1,2-付加していた。得られたC60-ペンタセンmono付加体の構造は、最終的に単結晶X線構造解析で明らかにし、フラーレン部位が、隣接する分子の二つのナフタレン環の作る空間に包接されb軸方向にスタッキングしたカラム状の構造をとることが明らかとなった。 ② C60-ペンタセン誘導体の結晶状態におけるデバイス能の評価 有機薄膜太陽電池において、アクセプタ分子として機能するかを調べるため、poly(3-hexylthiophene) (P3HT) をドナー分子として用い、Bulk Hetero-junction型薄膜太陽電池を作製した。作製した太陽電池について、疑似太陽光 (AM 1.5) 照射下、Ar雰囲気下で太陽電池特性を測定したところ、光電流の発生が見られた
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画に比べ、予想していた以上に、目的物の収率が高く、化合物の生産性が高かったため、消耗品として申請していたC60(1g、52,000円)、ペンタセン誘導体の合成に必要な3,5-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシ)ベンジルブロミド (5 g, \ 46,746, Nakarai)、アセチレンジカルボン酸ジメチル (100 g, , \ 28,310 alfa) など高価な試薬の購入量が少なくなった。また、物性の評価に関しては、不安定なペンタセンを単離することなく、1ポットで安定な前駆体から合成できるようになった点で、アルゴンがスなどの不活性ガスの使用量が少なくなった。さらに学部委託する予定であった依頼測定(元素分析や高分解能NMR)について、所属機関内での測定が可能となり、依頼測定料金の支出が当初に比べ、少なくなった。 今年度からは、C70の反応性に着手する予定である。C70の価格は (1 g, \ 74,025 Nakarai) 高く、研究を遂行する上で、多くの試薬を使う予定である。また、順調に研究が進行しているので、本計画を遂行するにあたり、薄膜状態での分子配列の解明についての特殊な依頼測定、FETやITO基板や溶液プロセスでの消耗品を購入し、実験計画よりも深いレベルでの物性検討について使用したいと考えている。
|