研究課題/領域番号 |
25410044
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
根平 達夫 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (60321692)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 有機化学 |
研究概要 |
本研究で目指しているのは、蛍光検出円二色性(FDCD)法の実用化である。研究代表者らの開発した楕円鏡型FDCD測定装置は、蛍光偏光の影響なしに常に正しいFDCDスペクトルを与える。これをタンパク質へ適用すると、ペプチドを含む混合物中からでも特定のタンパク質だけを選択的に観測しながら、三次構造の変化を鋭敏に追跡できる。FDCDの試料は溶液でさえあれば良く、測定も簡便かつ迅速であるという特長があるので、FDCDはX線法やNMR法に続く第三のタンパク質立体構造解析法となる可能性がある。実用化のためには、微量のタンパク質でも測定可能であり、得られたスペクトルが立体構造について解釈可能であるのが望ましい。 当該予算申請時は、学外研究施設のCD測定装置を使用する予定であったところ、幸運にも別の研究機関よりCD測定装置の譲渡を受けることができた。この装置を研究代表者の実験室に移設し、同時にデータシステムの更新などを行い自前のCD測定環境を構築した。これと並行して、円筒セルの小型化を検討した。第一世代として、円筒の直径を従来モデルの半分にし、さらに試料交換口のマージンを小さくすることにより、約1/10程度の試料溶液で測定できる小容量セルを試作した。 この第一世代小型セルが、従来の円筒セルと同等の信頼性を持つかどうかを、まず有機小分子で評価した。その結果、有機小分子の測定のうち最も難しい場合である蛍光偏光を無視できない試料でも、ひと手間の光量調整だけで信頼できるスペクトルが得られた。 しかし、代表的なタンパク質の一つであるDNS-CaM(蛍光ラベルであるダンシル基を導入したカルモジュリン)を用いた際には、光量調整だけでは蛍光偏光を解消できなかった。従って、現状で微量タンパク質の構造解析への展開には、小型セルの改良がまず必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
単純に研究成果だけを取り上げると当初の計画よりやや遅れている、と言わざるを得ない。当初の計画では、学外研究施設のCD 測定環境を使用予定であったが、これは施設の予約や移動時間などの制約があり効率の良い方法ではなかった。今回、別の研究機関からCD測定装置の譲渡を受けたのは、今後の実験環境は大幅に改善されると考えたからである。ただ本年度を振り返ると、移設から調整・システム更新までに、かなり時間と費用がかかってしまった。 本研究で目指している微量タンパク質への適用を考えると、装置の小型化を避けては通れない。装置の小型化は、ベストデザインに基づく試作と実験的な性能試験を繰り返す必要がある。本年度終了時点で結果的に蛍光偏光の影響を回避できていないが、有機小分子については信頼できるスペクトルが得られているので、有機小分子に対する微量分析は可能である。微量タンパク質への適用のため、次世代の小型セルの試作を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
実用的な小型セルの開発を優先して継続する。それと並行して、FDCDスペクトル-構造相関の解明への方策として、想定したFDCD メカニズムを端的に再現したペプチドモデルの合成を開始する。 第一世代の小型セル試作では、微量化には成功したが蛍光偏光の解消は充分ではなかった。第二世代の小型セルでは、タンパク質試料に対しても蛍光偏光の影響を完全回避できるものを作りたい。このため第一に、円筒セルの上下方向に挿入するマスクの形状変更により、現行モデルより効果的な光量調整を可能にする。第二に、試料導入口を筒型に変えてベースラインの歪み(第一世代の小型セルではブランク測定により補正)を低減する。 一方、従来からある楕円型セルなら蛍光偏光を原理的に回避できるので、大腸菌による大量発現が可能なタンパク質やペプチドのFDCD測定はできる。そこでFDCDのメカニズム解明を指向して、蛍光性アミノ酸残基と、それが相互作用する芳香族アミノ酸残基を備えた単純なモデルとして、オリゴプロリンの棒状配座を利用したペプチドライブラリーを構築する。このときペプチドの重合度を段階的に変えることにより、相互作用するペプチド間の距離を意図的に制御する。 また、タンパク質脱リン酸化酵素に注目している研究協力者の石田らは最近、カルモジュリン依存性タンパク質の脱リン酸化酵素と、それと相互作用するフィラメントタンパク質の大量発現に成功したので、この制御系の構造-活性相関解析に、FDCDを応用する。この制御系はがん細胞の転移機構に関わる可能性が石田らの実験で示唆(未発表)されており、FDCDが新しいがん治療法の提案に役立つ可能性がある。さらに光受容体のメカニズム解明のためレチノイン酸受容体への変異導入を得意としているBorhanとも連絡を取り合い、蛍光性アミン酸残基であるTrpの導入デザインへの準備を進める。
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